二百八十九生目 刀剣
グレンくんになんとか勇者として成功した自覚を持ってもらう。
職業としての『勇者』はやめるんだけれどね。
協力者は多数とりつけられるからこれで良いとして。
「別の職業を新たになれるようにしておかないとね」
「それでこの本か……どうやって読むんだろう。確か開くととんでもない情報の海に飲まれるって聞いたから」
「ああ、それはね……」
私は口を閉ざしてから自分の頭を指でつつく。
グレンくんは一瞬とまどったが私から念話が送られることですぐに理解する。
"以心伝心"で念話しないとこの先わけのわからない会話になる。
『もしもし、届いているかな』
『ああ、大丈夫』
『その本の使い方はつい先日発見したんだ。簡単に言えばネットサーフィンするんだよ。調べたい単語を想像してから開こうとすれば、該当ページの該当部分にだけアクセスできるし、データも直接取り込めるのにそこまで負担はないよ。もちろん、無理は禁物だけれど』
『あー……ワグるのか』
某検索エンジンで調べ物をする時の俗称に思わずくすりと笑ってしまった。
そして私はそんな事も誰かに言われたり悩んで掘り出さないと使えないことに気づく。
グレンくんに変な気遣いさせないよう顔が曇らないようにしないと。
『そう。ワグってみて』
『それじゃあ……刀 武士 侍、検索!』
検索まで言う必要はないのだが気分だろうか。
グレンくんが軽く表紙を手にとってめくるとそのまま勢いがついたかのように流れていく。
手を触れていないのにしばらくめくれたあと……
1つのページで止まってグレンくんが眩しそうに顔を腕で覆う。
「大丈夫?」
「う、うん……少しびっくりしたけれど、それだけ」
どうやら少し頭に衝撃が来たのか片手で頭を支えているものの命に別状はなさそうだ。
私はホッと息をつく。
グレンくんが前と違って弱くなりすぎて不安だ。
「どう、何を覚えたの?」
「……職業『サムライ』とそのなり方とか……色々頭の中に入ったみたいだ」
どうやらちゃんと機能したらしい。
これならば問題ないだろう。
「その条件も満たしちゃおう。やり方は? というか、頭に入るだけでなれるようになるのかな……?」
「そこに関しては大丈夫らしいよ。俺の中で、サムライの心が出来る感覚がある……!」
サムライの心はさっぱりわからないがどうやら読むことで大きな条件の1つは解放されたらしい。
なるための条件そのものはかなり簡単だった。
少なくとも勇者を止めるよりは。
今習得できるようにした状態の後に何でも良いので刀を手に入れて武器は何でも良いので魔物たちに抜刀してからの1撃を何回も繰り返すだけで良いらしい。
普通にやっていれば終わるだろう。
グレンくんは今単独で魔物を倒すのは困難だから条件に倒すことが含まれていなくてよかった。
「刀かあ、どこで見繕う? 多分いきなり高度な刀を買っても意味がないけれど、将来を見越すと鍛冶師さんに専門依頼したほうが良いよね」
「あっ……その」
「うん?」
グレンくんに誘導され。
外にいつの間にか設置されている空間拡張機能つき武器箱を開けて。
中身からジャラジャラと刀が出てきた。
……どんだけ刀好きなんだ!
「絶対こんなにいらないよ!?」
「いや、本当に違う、ちょっといろんなところに行くたびに、かっこいい武器があって……」
「うーん……まあ……グレンくん昔は振るうたびに武器が折れていたし、数を用意するのは間違っていないんだけれどね……」
完全にアレである。
旅行でテンションあがって使わないのに買ってしまう土産。
グレンくんのここにある刀はほぼ新品だらけ。
壊れてしまうからということではないだろう。
適当に振って満足してしまったのがなんとなくわかる。
まあこれだけあるのなら問題ないのだろう。
そのあとグレンくんは調子のいい日に進めることにした。
私は特に今は刀に興味はない。
ただこれで職が得られるのなら……
こんにちは私です。
最近毒を持つ魔物たちにも流行ってきているもの。
それはアノニマルースでも悩みになることが確定しているため先に手を打つ必要があるもの。
タバコだ。
正確には喫煙道具。
キセルや葉巻それから水タバコに噛みタバコ……
種類は様々だがアヘンチンキは皇国自体がなんやかんやと直接輸入を避けているおかげでアノニマルースには来ていない。
豊富な毒物は魔物たちも注目しだした。
火元になるものが多いためまだおっかなびっくりな魔物が多いが。
最近アノニマルースでは火を扱えるのはカッコいいという大人への背伸びみたいな風潮がありどんどん進出している。
面白いのは種族がくっきりと別れている点だ。




