二百八十八生目 協力
グレンくんが勇者を止めるには複数の手順がいるけれど……
素材採取に関してはグレンくんに協力したい面々は多数いるからあまり心配していない。
あのフラフラなグレンくんでも運ばれて現地まで行けばなんとかなる。
特定の儀式場所に関しては現代でもまだあるはずのところで行えるようだ。
前に本で読んだことがある。
有名な神殿で現代でも観光名所扱いされていて本来の役割はあまりしていないが誰でも行ける。
問題はグレンくんがもうひとつ別の職につかないといけないということだ。
ただ私の予想通りならばこの本から確実に情報が引き出せるはずだ。
「もしかしてこの本……読もうとするのが間違っていたのかもしれない。多分、必要な情報を引き出すのが正解なんだ。正確に把握させるためにとんでもない情報量が詰まっているから……」
[なるほど。本という見た目とは違う使い方をする神具ということか]
まるで広大なインターネットだ。
端からネット情報を頭に詰め込まれるようなことをすれば間違いなくロクに情報は得られない。
想定して中身を『検索』しなくちゃいけないんだ。
やっとこの本の使い方がわかったよ……
いやまさか本の『使い方』を模索する必要があるとは思っていなかったが。
気合入れれば少し読み進められるから余計に。
「私、少しグレンくんとも話してみたいと思う。フォウはどうする?」
[自分は次に会うときカードゲームで負けないと宣言している。弱っている状態で会いに行き勝つのは本意ではない]
フォウはカードデッキの中身を広げる。
前はデフォルトデッキのままだったが少しずつ増やしているらしい。
高額品ながらなんとか増加させているのを見るにやはりフォウ自身もいろんなツテや稼ぎがあるようだ。
フォウのことはあまり私は詳しくないことも含むがこう見えて側近がいるためかなり監視体制はある。
フォウの動きは悪いけれど1日中見張らせてもらっているためウラではちゃんとデータが累積されているのだ。
特筆して問題が上がってこないということは本当に1番問題だったのは最近さらわれたことだろう。
あの時フォウは私と会う約束していて側近たちを離しカフェの外席で待っていたため誰も気づかれなかった。
今頃体制の見直しがされていると思う。
運もここまで悪いとはね。
フォウは今度会う時は全力で勝ちに行くらしい。
そのためにグレンくんへ会いに行かないのはなかなか微笑ましい理由でもある。
……実際は今行くとボコボコに負けそうだからな気はするが。
というわけで日を改めて。
私はグレンくんの見舞いに来ていた。
グレンくんは今日家の外で椅子にこしかけていたので波がある症状のうち軽い日だったらしい。
私はもちろんニンゲンに扮する。
イバラは使いません。
挨拶をかわして早速本をかばんからだした。
「これが例の本……」
「グレンくんの負担になるからまだ開かないほうがいいよ。勇者の項目に関しては私が説明するから」
グレンくんに面会する前に送った手紙でだいたいのことは説明してある。
グレンくんもちゃんと覚えていたようで素直に私の話を聞いた。
条件に関してはここでちゃんと初めて伝えたためメモを手にグレンくんは悩んだ。
「け……結構大変だね……」
「少なくとも、何度も海外に行かなくちゃいけないからね。言語問題はともかくとして、グレンくんの体力を鑑みて途中までは私の部下がワープさせたほうが良いと思う」
5大陸全てを巡る必要があるため私の冒険部下に依頼して現地まで行き"ファストトラベル"場所を覚えてもらう。
それを利用してグレンくんと協力者たちが現地に行き採取して日帰りする。
それが現在考えている中で1番マシな旅行プランだ。
「俺ひとりで行けるだろうか……?」
「うん? グレンくんなら協力者を募れば良いじゃない。人を雇うお金ならたくさんあるからね。それにグレンくんになら手を貸せるって相手はたくさんいるから」
「協力者?」
すごく意外だったらしい。
グレンくんは考えがそこになかったかのように顔を上げる。
瞳が揺れていた。
「グレンくん、たまに自分の事を忘れていない? 勇者だよ、魔王を退けた」
「あー、あー! そうかあ、そうなるのか……」
どうやら寝て過ごす日々のせいで自分が生ける伝説だと言うことを忘れていたらしい。
まあ気持ちはわかるけれどね……
私も持ち上げられ方や報酬が高すぎて良く困惑してしまう。
でも一応第三者的には世界を救った者たちでそれ相応の権力と資金が流れる。
アノニマルースにもたくさん流れたそうだ。
勇者ならば全員よりも富も名誉もあるのに家で寝ているのが仕事状態じゃあ実感も何もないよね。