二百八十七生目 厄介
フォウによると勇者は何重にもおかしくなった『職業』らしい。
「機能していることもおかしい、不利益を起こしていることもおかしい……と」
[おそらく、勇者という職業が他の職業と違ってとても特殊なつくりだったのだろう。でなければこれだけ動いている理由にならない]
フォウは石版に描かれた絵を消していく。
正直わかりやすくかいたのであろう絵たちが古代壁画で描かれた謎の紋様にしかみえなかった。
おそらくかなりうまい絵なのだろうことがよりこまる。
少なくとも現代とはかなり絵への解釈差がある。
しかも古代から今まで残るような芸術的に保存された絵じゃなくてぱぱっとメモ書きしたもの。
こういうのに対しては言語じゃないから私の能力は役に立たない。
それをわざわざ指摘してフォウのやる気を削ぐのもなあ……
今の所ついていけているから良いや。
「結局の所、グレンくんを助ける方法はあるの? 今の所世界の故障発生過程はわかったけれど……多分勇者の発生条件そのものが魔王の存在だったから、魔王が出る事によって無理矢理出てきてしまったみたいなんだけれど」
[その条件ならば、解消する方法はあるかもしれない。個体グレンが苦しみをどうにかするには、世界の故障をどうにかするしかない]
「お医者さんは一種の病と言っていたけれど、結果として病が引き起こされているように見えるだけで、実態は世界の故障が原因、ということか……」
だったらそのうち治るという言葉は無効になる。
早急に対策を打たないと。
「世界の故障でグレンくんが苦しんでいることへの対策は何をしたらいい?」
[まだ何もかもはっきりしたわけではない。ただ、1番可能性が高いのは、自分が死ぬことで数百年単位勇者の条件を未達成にし、防ぐということだ。おそらくそれで勇者としては、解放される]
なんでもないように自死の可能性を言ってくる。
ただなあ……
「うーん……まずフォウが死ぬということがよくないのもあるけれど、多分それじゃあグレンくんそのものは助からない」
[というと何だろうか]
「魔法でもよくあるんだけれど、始動条件と終了条件って違うことが多いんだよ。維持条件も別な事が多い。神力概念がどこまで似通っているかはわからないけれど、多分そこまでズレたことは言っていないと思う」
[だったら、やはりあの本に頼るしかないか]
フォウが指したのは私が持ってきている職の本だろう。
亜空間から取り出しておく。
「でも、この本はなかなか読み進められなくて……」
[今はどのくらい読めたのだろうか]
「一定量読めば記憶は残せるみたいなんだけれど、なかなかその一定量がエゲツなくて毎度1から読み始める事になってて、大変なんだよね……」
[とりあえず勇者の頁だけでも見つけられないだろうか]
少しずつ本の読める範囲を増やしていった事で序盤だけは記憶を持ち帰れた。
とは言ってもその中身はこの本自体についての語りだ。
職業そのものが封じられていて一定量読むとその分を持ち帰れるというもの。
書いた当時の背景がチラチラと脳裏に映り込んだもののまだデータとして不完全なのか何らかの重々しい原因があるとしかわからない。
記した神たちの背景はともかくとして。
勇者のデータかぁ……
とりあえず座ってトゲなしイバラを使って本を掴む。
そういえばどこにあるんだろう勇者のデータ。
この本はページそのものにはあまり意味がないから何ページに行くとか考えてもあんまり意味ないんだよね。
とにかくこうザッとみようとして勇者の項目だけ見つけれれば……
そうしてゆっくりと開く。
「っ!?」
突然本が私の意思とは別に動き出した!?
急にパラパラと高速にめくり……
本は1つのページで止まる。
[どうなっているんだろうか]
「わからない……それに情報がはっきり見える」
あの情報がなだれ込んでくる感覚がない。
1つだけがしっかり私の中にきっちり流れ込んできた。
おそらくフォウにも。
中身は勇者に関して。
勇者は特別な職で普通はつけない事から始まっていて……
最も大事な情報は。
「……勇者職の辞め方は、この手順を得たあと別の職業に切り替えることで、成り立つ、かあ」
[なかなか厄介そうだ]
「……勇者が辞めなきゃいけない事態というのも、想定されていたんだね」
多分勇者が死なない程度に再起不能化する可能性が想定されていたんだ。
次へ引き継ぐための技術。
準備のためには……
別の職業。
自らの力で採取した品々。
特定の地に赴きそこで規程儀式を行って神の赦しを得る。
ほとんどグレンくんだよりだな……




