二百八十六生目 勇者
私はフォウの愚痴を散々聞くこととなった。
私の思考内にあるログに書き込まれる文字は相変わらず感情の起伏を感じにくく平坦だが……
顔や手足がわかりやすくキレているので大変だったようだ。
特にフォウは強くない。
体力が見た目以下なので子どもというか幼児。
今も癇癪起こすのに疲れだしてノビている。
私の脳裏に取り調べを受けながらちょくちょく休憩を挟まねばならずまったく進まないさまが浮かぶ。
なんというか……みんなご苦労さまです。
私も何度か取り調べされたから私にもその心労が降りかかるようだった。
[ふう。疲れた]
「そろそろいいかな? 本題に入ろっか」
[うん、なんだったか]
思いっきり頭の上にはてなを浮かべる表情している……
思いっきり忘れている!
「これだよ!」
私が本を亜空間から取り出す。
1冊の古い保護概念のかかった本。
職業概念に関する事が記されているはずの本だ。
[そうだった。その本関連のことを追加で見つかったことがある。勇者についてだ]
完全に忘れていた顔をしている……
というか。
今ものすごく大事な事を言わなかったか。
「勇者……グレンくんに関して!?」
[そうと言っても良いが、正確には勇者という概念そのものについてだ]
グレンくんそのものではないのか。
まあ職業本に関係する話でグレンくんが出てきたらびっくりするが。
勇者が出てきた時点でもびっくりしたし。
「勇者……魔王と対立する概念だよね。それがこの本と関係が?」
[ああ。色々と調べた上でほぼ確定した情報ではあるのだが。勇者は、職業なのだ]
驚いた。
勇者概念そのものが職業だったのか。
あれ……でもそれだとおかしいことが少なくとも2つ。
「びっくりしたけれど……それだと魔王も職業なの?」
[いや。魔王は畏名であり忌み名であり俗称でもある。勇者はその魔王に対して特攻を与えるために後付けで生み出された、必殺の職だ]
嬉々として語ってくれている本人こそ魔王である。
これでいいのか?
終わった話ではあるから良いのだろう。
「えーと、それじゃあ職業なのに今も機能しているのはなぜ? この本に封じられているはずならば、機能はしていないずなのに……」
[そこは考えた。機能をしていない概念が、なぜか機能を果たしている。しかもおそらくは機能不全の状態で。自分は、世界の故障と考えている]
いきなり物騒な単語が放り込まれた。
「世界の、故障? バグ……?」
[虫のことはしらないが、世界の故障というのをしっかりと説明するのは難しい。そうだな、ここにわかりやすく書こう]
フォウが石版を取り出して書き込んでいく。
なんやかんや物が増えてきているんだよねこの部屋……
[まず2柱の神がいたとする。片側が『貫通』の概念を持った力を放ち、もう片側が『不貫』の概念で防ぐ。この場合どうなると思うかな]
なるほど矛盾問題。
これがどう世界の故障に繋がるのかはわからないけれど。
あと描いてある絵が残念ながら感覚が神によりすぎていてわからない。
「矛盾した概念同士……普通ならば力のこもった方が勝つ。けれど、拮抗した場合はどうなるんだろう、対消滅?」
[互いに消し合う場合はまだ良い。実際は互いに拮抗することもあり、しばらく鍔迫り合いが行われると異常が起こる。世界の一部が通常ではありえない挙動を起こすのだ]
ああーやっぱりバグだ。
私の言ったバグが翻訳時に虫とされてしまったのはよくあるやつだ。
今度九尾博士に誤変換について送信しておこう。
それにしても世界がバグるって……
神々の神力はとんでもない現象を起こすとは知っていたが。
予想以上に世界への影響が大きい。
[それと常勝やら必勝やらの概念を持つものが負けた場合。盛大な故障を起こすこともある。例えば事象を観測していた者たちが壊れ、概念を持っていた神は故障にがんじがらめにされしばらくの間まともな行動が取れなくなる]
「えっと……壊れる、というのは……?」
[そこまで詳しくはないが、震え、痺れ、一時的な記憶障害、視界の錯乱、行動停止などを複数起こすらしい]
思ったよりも凄まじいっ!
「それって、大丈夫なのかな……?」
[しばらく見ないようにすればそのうち直る。世界の故障を畳み込まれた場合は、]
途中で文面が止まっていた。
待つが次の文面が送られてこない。
代わりに体で『ダメになる』ってエモーションされた。
私も思わずうわぁって顔をしている。
呆れるというか恐ろしいというか……
神関連は本当にろくなことが起こらない。
「それが今、勇者に起こっていることに近い事……?」
[そうだ。何重にもおかしなことが起きている状態のはずだ。見た目よりも厄介な事になっている]
聞きたいような聞きたくなかったような……




