二百八十四生目 心労
「はい、これでおしまい」
ホルヴィロスがビラビリリの処置を終え処置後消毒まで済ませた。
相変わらず手際が鮮やかだ。
私がやるよりだいぶ良い。
今回ビラビリリは私の見立て通りしっかり急所攻撃を貰っていた。
うっかり負けるか更に死ぬかするところだったが私の複数補助の差で動けていただけらしい。
ちゃんと頑強にしておいてよかった。
もちろん内臓損傷の恐れがある怪我なんて私が診るわけにはいかない。
緊急外来は高いし専門医が滞在していない時もあるし夜中に迷惑かけるのも困る。
そのため医療のプロを呼んで治してもらったわけだ。
一応これで大丈夫というお墨付きを貰ったあとで。
「さて、まずは必ず1週間の安静……おっと、休んでね。この間は激しい運動はしてはいけないよ。職場に連絡して今から書く医師診断書を受領してもらって。今日から3日後に私が再度怪我を診るから、時間を調整してローズの家を訪ねて。詳しい場所は役所で聞けばすぐ分かるから。そして様子を見つつ抜糸……今身体を縫ってとめた糸を取るよ。さらに傷を治し病気にならないために、処方する薬を飲んでもらって――」
ホルヴィロスがビラビリリの顔をみて理解範囲を把握しつつ話す。
ただだんだんとビラビリリの脳が止まってきたのか目が遠くなっていっている。
まさか治すためだけにこんな複数のステップを踏むとは思っていなかったのだろう。
多分今まではそこまで深手を負わなかったんだなあ……
そして若干無茶もしていたと。
それらを見逃すホルヴィロスではない。
「――というあたりで、だいたいわかったかい?」
「は、はい!」
「……大丈夫だよ、一応行動表は作っておくからさ」
ホルヴィロスとビラビリリは苦笑いする。
とりあえずその場はそれで終わり解散となる。
ありがとうホルヴィロス……
明朝私とビラビリリくんは並んで歩く。
ビラビリリくんは治療のおかげか眠気を思い出したらしい。
大きなあくびをする。
「ああ、大変な目にあった……」
「あはは、治療大変そうだったね」
「まあ、それもあるのですが……」
あれ。それだけじゃあないのか。
ビラビリリは深いため息をつく。
呆れではなくなにか心労を吐き出すかのように。
「あの時最後にやってきたあいつら……噂だけは知っていたけれど、アノニマルースの影で初期から活躍していたとされる、『形なき者』たちですよ」
「へぇー……『形なき者』……有名なの?」
「裏では存在があるとまことしやかに囁かれている程度で、町民たちには伝説上の存在だと思われているようですが、彼等の発言で確信しました」
何か変なこと言っていたっけ……
と考えていたのが顔に出たらしい。
ビラビリリが付け足す。
「アノニマルースのために良く働いたーって言っていたじゃないですか。バウンティハンターはどちらかといえば利己的な理由で動いています。滅私奉公で動いている彼等とは根が違うのですぐにわかりました」
「ああーなるほど」
納得なっとく。
そういえばその違いがあったか。
「ところでローズさんはもしかして彼等を知って……いや良い、もうあそこを探るのも怖いですよ。明らかに敵も暗部の兵でしたし絶対触れちゃいけないよ……」
「まあ、なんだか納得してくれたならありがたいですが」
遠くから太陽の輝きが少しずつあたりを照らし出す。
もはや夜の時間は終わる。
彼は最後にほほえみをたたえて。
ふたりで無言で光の方へと歩んでいった。
ここで終わればよかったのだが。
後日私の元に1つの報告書が来る。
見た目は普通の報告用木札。
秘書のみんながすでに目を通した証はあるものの追加で私が見る必要があり投げられたもの。
見ただけではそこまで重要性は高くない。
しかし私の魔力を通すと……
反応して文字が入れ替わる。
特別なインクらしい。
内容をざっくり見るに、
[民間と協力して潜伏していた仮想敵暗殺者たちがいたのですが、私達の目が届きにくい難民キャンプに拠点がありました。壊滅済みで現在尋問中ですが、ざっと調べた所朱の大陸出身者のみで構成され、出身国がばらついています。おそらく前報告のあった、ローズさんが朱の大陸の共和国で警告を受けた関連でこちらの調査をしていたんじゃないかなあと想定しています。これで本格的に向こうの国々を調査できると思うとワクワクしますね。間違いなく相手国は関与を否定すると思いますし引き取られないと思いますが、どうします? 用済みになったら殺しときます?]
……という内容がすごく丁寧な言葉で長ったらしくなるように書いてある。
私はため息をついた。




