百三十三生目 地震
リズムをずらされタイミングをずらされさらには踏みたい所に先回りされるストレス。
よく見たらいつの間にか配役が変わっていたりしてやらしいことこの上ない。
向こうは最小限にこちらは最大限ムダに動かされまともに相手しようとするのがどれほど面倒か思い知らされる。
だからといってやられるわけにはいかない。
避け続けること合計3分。
やっと魔法準備が出来たらしい。
その瞬間に余裕そうにくつろいでいたハイエナリーダーが急遽立ち上がる。
指示が上がり私に向かって4匹が飛び込んできた。
しかしもう遅い。
私は抵抗せずに受ける。
気合を入れた程度の防ぎは毛皮を裂くが痛みは薄い。
吹き飛んだりして詠唱がおじゃんにならずに済んだ。
あえて受けられた事で彼等は戸惑った。
防がれ避けられる前提の読みを今までしていたからだ。
だからこそ無防備に私の前に棒立ちを晒す。
私の全身が光を帯びて魔法が発動する。
普通の魔法ではこんな事は起きない。
つまりは普通じゃない!
地魔法を発動する!
「"クエイク"!」
大地が揺れる。
それがたった1匹の私の手によって今行われる。
膨大な魔力が私から地面へと降りて染み渡る。
具現化する。
揺れ動く振動へと。
ドドドドドド……!!
辺りは僅かな時間でパニックに陷るほどの轟音と振動が支配した。
立っていたものは思わずすくみまたは転ぶ。
飛んでいた者たちはその地の揺れに思わず自身の感覚が狂ったかと錯覚した。
細かくも強い振動はその中心地にいる私から更に追加が送られる。
衝撃波となって魔力の波がカタチを変え近くにいる魔物達を襲い始めた。
もちろんハイエナたちをだ。
すっかり足が動かないハイエナたちは迫りくるそれらを怯えた目で見つめるしか無かった。
何発も襲う衝撃波。
揺れる大地。
吹き飛ぶ獣。
……地獄だ。
これは1回だけ試し撃ちしたことがある。
誰もいない平原でこっそりとね。
そうしたらまあこれに近いことが起きた。
今はハイエナたちがいるのでめちゃくちゃ被害がある。
私が立っているところと空中以外に安全な場所は無い。
他は地震ですっ転ばされたり衝撃波で吹き飛ばされている。
ちなみに力の差の関係か1回目で近くにいたハイエナ4匹はごっそり生命力削れたので"峰打ち"を慌てて加えた。
総勢7回の衝撃波を送り終えてやっと地震が止む。
ハイエナたちはみんなその身を崩して打ち震えていた。
衝撃波で吹き飛ばされもはや生命力もたえだえ。
正直死にかけで向かってくるほど彼等は馬鹿じゃあない。
恐怖に囚われもはや動けないだろう。
だとすれば問題は……
ハイエナリーダーだ。
彼女は気丈にも立ち上がる。
生命力を"観察"すれば確かに余裕はありそうだ。
しかし"読心"すればその心は恐怖だった。
何に対する恐怖かまでははっきりとはわからなかったが……
それでも立ち上がるのは奇跡的とも理解できた。
……うん、そろそろ言語が理解できるようになったようだ。
呼びかけてみよう。
「こちらとしてはこれ以上続けるのは無意味だ。降参してくれ」
「な!? 言語を解すだと!?」
「しゃべった……?」「あのマモノしゃべったぞ……?」
向こうさんが困惑している。
今の内に。
「私は能力でそちらの声をある程度聞ければ習得出来るんだ。だから今こうして交渉したい」
「交渉……? なんと戯言を! 狩るか狩られるかそれだけだろう!」
「まあ、一理ある」
野生としてはそれが正しいよね。
で、正しいことの利点って何?
「こっちはこっちで場所が欲しくて探索しているけれど、それはここで殺し合いをするのとは関係ない。そもそもまだ場所をこの迷宮にするかも決めていないのに」
「くっ、喋るだけでも奇っ怪なのに何を言い出す?」
「この迷宮で棲むところを作ろうかなとしていてね」
嘘は言っていない。
3匹だとは言ってないだけけだ。
「そんな事、知らん! 私は群れを守るのみ!」
「うわッ」
ハイエナリーダーの身体に光が集まったと思ったら強く瞬く。
目くらましか!
目が見えない間にも気配が遠のいていく。
「……うう、アヅキ、ドラーグ、大丈夫?」
「……はい、何とか。しかし取り逃がしてしまいましたね」
「イテテ、目が痛いよう」
目が見える頃には姿が消えていた。
ただまあ追尾することは出来る。
さてはて……
「追いかけよう」
「あれ、でも追い払えたなら十分なんじゃあ……」
「酷く手傷を負わせたまま逃げたから、大丈夫か気になってね」
「やはり主はお優しい。では早速追跡しましょう」
間違いなくリーダー以外は生命力がギリギリ。
治すつもりだったから強力な魔法を放ったけれど逃げられてしまった。
ただ慌てていたらしく痕跡は多く残っている。
順に追っていこう。




