二百八十三生目 迂遠
私の強化を受けたビラビリリくんと敵リーダー。
どちらの攻撃がしっかり決まるか。
パッと見の生命力差ではどちらもまあまあ削れているもののビラビリリくんは速さを相手は1撃急所を狙える。
どちらが勝つかの1本勝負。
両方高速で撃ち合い切り裂きあいくっついては離れる。
ビラビリリは私の援護を受けてかなり好調。
ビラビリリが斜め角度に蹴り跳んでからの急襲。
雷撃の牙を剥く。
対する敵リーダーは袖口に隠してあった暗器をこれでもかと狙いすまして腕を振り突こうとして……
決着がつく。
膝をついたのは……
「ウッ」
ビラビリリくんが苦しそうに呻く。
けして浅くはない傷が身体につき血が噴き出す。
敵リーダーが初めてその表情をはっきりと動かし口の端を上げる。
「フッ……やるじゃないか」
敵リーダーは全身に電気が走る。
そして身体を支えられずガクガクと震えたあと……
その場に倒れ伏した。
「手加減している余裕は無かった。生きていれば良いが」
うーん……ギリギリのライン。
生きているけれど手当が必要だ。
まあそれはともかく。
他のサポートたちも3体のバウンティハンターたちに追い詰められさっくり倒された。
これでなんとかなるだろう。
遠くから急行する警備隊の音がする……
「御苦労」
「「!?」」
しかしすぐにこの夜は終わらないらしい。
バウンティハンターたちの前へ不意に現れた複数の影。
さすがにバウンティハンターたちも完全には接近に気づけず驚きを隠せなかった。
まあ本当にギリギリまで身を隠していたものね……
「……誰だ」
「依頼人だ」
短い言葉ながら驚きの事実が。
あの酒瓶持っていたおじさんなのか!?
いや……むしろ。
「暗幕の裏に誰かがいるのは気づいていたが……同業か?」
「似ているが、違う。担当が大きく変わる。今回我々では手が届きにくいところで逃げ回っていたこいつらを、見事見つけ出してくれたのは助かった。もちろん、お前らの『頭』とは了承済みだ」
そうひとりが話している間にも手早くノビている面々を捕縛して暗器やら自害薬を手慣れた様子で外している。
最初は驚いていたバウンティハンターたちも気持ちを切り替えた。
まあ目の前でこんな手際よく動いている時点で何らかの介入があるもんね……
「……我々は知らぬが幸か」
「ああ。だが……アノニマルースのために良く働いた。それは確かだ」
言うことは言ったという態度で素早くその場から消える。
さらに警備隊の音もかなり近くなってきた。
「……どこの者か迂遠でも言うなよな……」
誰かの苛立つようなつぶやきが聞こえたあと……
その場には誰もいなくなった。
色々話していた時にちゃっかり回復も挟んでおいたので生命力の方はみんな大丈夫だろう。
ただし生命力だけは。
「アイダダダダ!!」
「はーい、我慢してねもう一本抜くからね」
ここはビラビリリくんの裏拠点。
本来は裏から病院に入り緊急外来にかかるらしい。
冒険家業をするものは全身傷だらけで帰ってくることもあるのでそこまで珍しくない。
ホルヴィロスを呼んだら何も聞かずに治療をしてくれている。
ホルヴィロスは医療のプロ中のプロ。
争いの跡から何があったかだいたい想像はつくだろうに私の目配せでただの患者扱いしてくれている。
ビラビリリも最初はいきなり白い毛玉みたいな神様が来てびっくりしただろうが今ではおとなしく治療をうけてくれている。
私が事前に少しビラビリリに話してはいたのもある。
ホルヴィロスが深掘りする気がなければこちらも関与しないということか。
「ほら、これはかえしがついてて大変だ……よっ」
「アダダダダ!? こう、痛みを和らげるやり方とかないんですか!?」
「ないことはないけれど、身体に悪いしキミは元気だし痛みを和らげるやり方を覚えてもらうと何となく無茶しそうなので、ガッツリ通常外科手当で済まします。それに本来はサポートが欲しいんだからね……」
確かに私の記憶内でも麻酔は麻酔専門の人が常に管理して無くてはいけないようなものだったはず。
……それはそれとして部分麻酔はあったような。
まあ部分麻酔するには治療箇所が多いか。
「いや、い、いでででで!? 穴開けられてる、ローズさん止めてえぇ……」
「傷を縫っているんだから動かないで。まあまあ深く刺してあるこの傷はちゃんと縫わないと」
「あははは……ちなみに魔法で塞ぐと転がるくらい痛いけどどちらがいい?」
「選択肢がないじゃないですか……」
ビラビリリがふと笑みをうかべ……
すぐに激痛で身体をうねらせた。




