二百七十六生目 回収
私とビラビリリは流れ着いた者たちの場を歩いていた。
ただ歩いて雑談しているわけじゃなくてビラビリリの立派なパトロールだ。
フォウが攫われかけたさいの行動も危機を察知して現行犯逮捕したわけだ。
というわけで見回りをしているのだが……
「あ、ゴミもらいまーす」
「けっ、もってけもってけ、俺ですら食えんもんしか入ってねえ」
……ビラビリリくんは昼の顔で仕事中。
つまりカラスマークをつけてゴミ収集作業。
このスラムじみた土地……実は清潔度が高い。
暗がりは多くともゴミやトイレそれに雑菌などはかなり徹底して除去されている。
ビラビリリくんによると『こっちのほうが清潔なぐらいじゃないと、いざ病が流行ると目もあてられなくなる』とのこと。
言われればそりゃそうだ。
というかビラビリリくんみたいな現場員にすら徹底して衛生管理概念と病との関連性がちゃんと紐付けられているだなんて徹底しているなあ。
「"亜空に集え、ストレージ"」
ゴミを受け取ったビラビリリくんが詠唱すると亜空間にゴミが消える。
私がめちゃくちゃ便利だからと覚えられる魔本ならぬ魔紙を量産してアノニマルースであれこれ条件を満たすと買える品。
実際便利なんだけれど使い方の計算とか取り出しの計算とかの理解ができないとあっさり大変なことになる魔法でもえる。
空魔法は本当に運用が重いんだよね……
魔紙を作るのも凄まじく奮戦することになった。
「あれだねえ、思ったよりずっと平和……」
「まあ、僕たち魔物が歩いているからそうそう変に動けないこともあると思いますけれど……案外平和ですよ」
かなりの時間いるはずのビラビリリが平和と言い切る。
つまり思ったよりも悪事のしにくい環境が整っているわけだ。
それには当然ビラビリリくんたちバウンティハンターが関わっているわけで。
「……あれは」
ビラビリリくんが突如駆け出す。
表に出してある赤い紙箱。
グルグルに封されていかにもゴミ。
しかしビラビリリくんは何も余計なことは言わず即詠唱してその箱をしまう。
そして裏路地へと入っていった。
「ビラビリリくん?」
「ローズオーラさん……ならまあいいか。来ました。依頼です」
彼は再び亜空間から赤い箱を取り出す。
乱雑にゴミのようにされている赤いそれを何か手順が決まっているかのように切り裂いていく。
やがて紙は1つの長いものになる。
紙の裏側には文字。
住所と依頼名そしてその特徴が詳しく書かれていた。
「すみません、『仕事』です」
「私もついていかせて。変装なら得意だから」
「……まあローズさんなら」
こういう時は謎の信頼感も悪くない。
私はもっとこういう現場も知らなくては。
ビラビリリは『仕事』モードに突入。
フードを深くかぶり今度こそ取れないようにちゃんと紐づけする。
そして深く被ったことでわかったことがある。
さすがに私には"影の瞼"があるから効かないがこれには認識阻害効果がある。
一般的に今のビラビリリくんは誰かがわからない存在となっているだろう。
彼は1羽の梟……
「それで……ええと、本当にローズさんですよね?」
「フックーダヨ、ホッホー」
「ああ、うん、フックーさんですね……」
ビラビリリがすごく戸惑って対応してくれている。
私は彼の頭にとまった。
それもそのはず。
私の外見はどう見てもフクロウである。
高いレベルでの"変装"を使いありとあらゆる状態をフクロウのフックーにしてある。
体重も軽く小柄。
ただし自力では飛べない。
いわゆるエアハリーの力で浮くことはできるがこの翼は飾りだ。
もちろん羽根たちも。
こうやって姿を変えるだけで随分と感覚が変わって面白い。
昔アヅキと感覚リンクしたときに似ている。
腕が翼になっているのは違うところだけれど……
私が私を忘れぬようにちゃんと脚に小さく風羽のスカーフを出している。
これがある限り私はいつでも私を思い出せる……はずだ。
「向カオウカ、ホッホー」
「はいっ」
ビラビリリが駆け出す。
うわあ速い!
私のサイズ変化のせいで特に早く感じる。
フードをしっかり掴みつつ穴をあけないようにして……
目的地までのドライブを楽しもう。
ビラビリリは裏路地からさらに奥まり道なき道を行く。
丁度いい段差を見つけ屋根の上を駆けて道を無視する。
パルクールというやつだっけ。
スムーズに境目を超えていく。
地図をみずに行けるだなんて凄いな……
住所から場所を把握できるぐらいに叩き込んでいるのだろう。
それが普段清掃の仕事とつながるわけかな。
清掃なら町の隅々まで行けるのだから。




