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二百七十五生目 難民

 アノニマルースの影。

 それは強烈な光によって生み出されているもの。

 私とビラビリリくんが共に歩きながら彼らの住処を見回る。


 構成はほとんどニンゲン。

 ニンゲンたちの町で様々な事情でまともな暮らしができず……

 せめてその日暮らしだけでもと必死に逃げてきた者たち。


 しかし彼らの目には未来への光は灯っていなかった。


「ニンゲンたちの事情はあまり明るくないのですが、魔物の町に来るしかないほど追い詰められたとは聞いたことがあります。その分、ニンゲンたちの教育どころかアノニマルースの教育もまともに受けれず、受信機リングも分解して換金するものすらいるとか。そうなるともう、最悪意思疎通すら困難に……そして犯罪に手を出す」


「彼らの中には、魔物が嫌いだったり苦手だったり何ならこうして歩いているだけで殺意を向けてくるものもいるね……」


 ビラビリリも努めて無視しているだけで気づいてるだろう。

 不安や好奇の目だけではない。

 明確な殺意もまじっていることが。


「そんな、だったらここじゃないところにいったら……」

「……色々理由があってここにしかこれなくなっちゃったんだ。そしてその理由たちは、大局的に言ってしまえば、皇国や帝国、それにアノニマルースが拾いきれなかった部分なんだよ」

「それはっ……」


 ビラビリリは思わず『この町の責任ではない』っていいそうになり。

 すぐに口をつむんだんだろう。

 そう……それが彼にとってあっている。


 ビラビリリに限ってはその先は吐いてはいけない言葉。

 ビラビリリはあくまで弱者側の視点に立ち続けなくてはならない。

 なぜなら元は明らかにそちらよりだったのだから。


 そして……彼がバウンティハンターを続けている理由でもあるのだろうから。


 私達は歩む。

 想像以上に広がっているこの地を。

 スラムと呼ぶにしてもあまりに整っていない場所を。


「アノニマルースはもっと良くなっていく……けれどその時見かけだけ良くするために、彼らみたいな相手も排除しちゃいけないんだ」


「確かに……見かけだけよくしたいなら、他の町々みたいに彼らを追い出し締め出して、入れなければ良いですものね……けれどそれでは意味がないと」


 ビラビリリもやはり仕事上実感しているのだろう。

 どこまでも闇というのはついてくるもので……

 いないことにしても成立などしないしもっとひどい目にあうと。


 だからこそアノニマルースは受け入れ続けているわけでもあるし。

 ただだからといって治安悪化していては意味がない。

 ならずものを狩るならずものはどうしても需要がうまれてしまうんだよね……


 実際彼らは正規警備兵には嫌な思い出があるのか忌避し後でこっそりバウンティハンターに依頼するというものは多い。

 バウンティハンターにはニンゲンもわざわざ所属していてくれている。

 ならずもの上がりで各町に潜む夜闇というものを理解しアノニマルースだけではなくいろんなところに所属する者もいるのだとか。


「彼ら難民の多くは、どこの国出身かもわからないんだ。言語でだいたい分かるけれど、本当にどの国かも判別できない人も居て……上や権力それに施しとか公的サービスをうまく利用できなかったり、なんなら敵視していたりして、かなり嫌な思いをしてきたんだなって……」


「……僕も、なんとなくわかります。そういう気持ち。うまく自分が恩恵を受けれず、それに世界は個々で生きていくには厳しすぎて、中途半端にここにいなくちゃいけない。なんなら、もっとちゃんと欲しいと声を上げる相手を憎んでしまって、それなのに力のある相手たちすらも敵に思えてしまって、余計自分だけでなんとかしなくちゃと思い、雁字搦(がんじがら)めに動けなくなっていく……そんな自分すら憎くなるんです」


 ビラビリリくんはかなり実感のこもった言葉を発し下を向いていた。

 それに対し私は簡単には全部分かるよとは言えない。

 きっと私の立場的にも言えてはいけない。


 声を上げる。動く。よりよくなろうとする。

 そして誰かの手をとって誰かに手を持たれる。

 それが生まれつきできた私はやはり恵まれていたと思う。


 そしてここにいるただ貧困に喘ぎいついているような彼らも……

 ここにいるほうがずっとマシだと思える程度に。

 そう……嫌いな魔物や権力の作った町にいたほうがマシだと思ったほどに動き行動できたものたちだ。


 彼らなりの諦めと絶望の末必死の行動で得た道……

 世界にはこれも赦されず動けない者たちがたくさんいるということがわかるからこそ苦しくなってくる。

 世界を災厄から救うのも大事だが世界に隠された影にいる者たちをなんとか少しずつでもすくいあげるのも大事。


 手を差し出すのは何も善の心からじゃない。

 きっと彼らも誰かや私が崩れた時に手を差し出す時が来ると信じているからだ。

 例え最初は手を払われても手をとってくれるまで……


 まああんまり私もえらそうな事は言えないんだけどね!

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