二百七十三生目 雷撃
フォウが攫われていた。
相手は二人組のニンゲン。
身なりが粗悪でいかにも貧困な暮らしがうかがえる。
やはりそういう相手か……
「なんか弱そうなやつですぜアニキ!」
「なんつーか、ふつうだなあ……適当に痛めて追い払うぞ」
「へい!」
ふたりともいかにも普段遣いしている包丁ナイフを取り出す。
よし……一発で決めよう。
詳しい話はそのあとだ。
それに少し気になることもあるから早めに。
互いに足を踏み込んで。
何かの雷撃が空から降ってきた。
「わっ」
「「アバババ!?」」
ニンゲンふたりを狙った電気。
気になっていた上の気配だ。
私は狙っていないあたりこれは……
「ハッ!」
高所から飛び降りる影。
その姿は雷撃を纏った獣。
ビビットな色使いな毛皮が眩しい。
そして高所からの飛び降りついでに鋭い蹴り込みが子分っぽいほうの頭に直撃。
痺れているから避けられなかったのだろう。
電気って大したことのなさそうな見た目していてその実肉を焼き筋肉を無理矢理硬直させて擬似的なつる状態を全身に。
雷が危ないのはわかりやすいが時間をかける雷撃も命の危機になる。
そしてつった残りの痛みを全身に深く味わせられる。
見た目よりも遥かにこの攻撃はエグい。
兄貴分も痛みを堪えてやっと構え直した。
ただ当然今の雷撃で見るからにつらそう。
これは対応に差が出るね。
「誰なんだ、一体……!」
「喰らえっ」
ナイフを前に突き出して構えた相手に臆せず突撃し……
キレイに背の針でタックル。
ああ……あれは電極が直接刺さったようなもの。
ナイフを持った腕が硬直し。
「があっ!?」
「こうだ!」
「アバババババババ!!」
彼の指示で雷撃が走る。
骨まで見透けそう……
やがて電撃が止み口から煙を吐いて倒れる。
大丈夫か?
いや……致命的ではあるものの瀕死で耐えている。
しばらくは入院その後は刑務所かな。
「助かったよ」
「あっ……いや、僕は……」
影の全貌が明らかになる。
頭から首を覆うような4足用フードをかぶった誰か。
雷撃の針を使いこなすこととにおいだけはなんとなくわかる。
そして私の顔を見て……
逃げようとしたところで暴れていた袋詰フォウが荷台から落ちる。
あわててフォウを受け止めて衝撃でフードが頭から脱げる。
「あっと……しまった!」
「キミは……」
トランスしていて雰囲気が様変わりしているが……
その垂れ耳も含めて全体を見て。
まるで私に全体像を見られるのを嫌がっているかのような雰囲気から察するに。
「もしかしてビラビリリくん!?」
「……はい」
フォウを回収し敵を警備隊に突き出した後私とビラビリリくんは散策しつつ話すことにした。
ちなみにフォウは事情聴取が優先された。
私や……そしてビラビリリくんすらも事情聴取は免除された。
軽い聞き取りだけで済まされた……つまり。
いつもどおりということだ。
「まさかこんなに成長していただなんて!」
「本当は姿を見せるつもりはなかったんです……お恥ずかしい限りです」
ビラビリリくんとはホエハリの遠い近種で……
前はミミナリという魔物だった。
トランスしてより立派な姿になったのだろう。
肩から生える稲妻のような硬い毛並みが電気を帯びていてどことなく頼もしい。
明らかに前より強くなっているようだ。
ビラビリリくんは前安易に強くなる方法を模索するために高い金を払って詐欺商品に手を出していた。
さらにそれは違法物で彼は軽犯罪でしょっぴかれた。
まあ初犯なのと売人側に回っていないということで軽い罰で解放されたのだが。
しかしその時私達の方へと強めに呪詛を吐いた相手でもある。
私にバレるのをいやがった理由はもしかしてそれで顔をあわせづらかったからな。
今でもどことなく気まずそうだ。
「随分強くなったね。イタ吉のところに誘われていたけれど、やはりそこで?」
「ええ……参加者多数、まとめてしごかれましたが……現場は凄かったですよ。何十といたはずの面々全員に個別指導がありなにもかも徹底的に逃れることなく鍛えられました……」
ビラビリリ君が遠い目をしている。
やはり精悍な顔立ちになるまでに地獄をくぐり抜けてきたらしい。
果たして迷宮の魔物何体倒せるまで開放してくれなかったのかな。
イタ吉が私と同じ考えに至ったならばとにかく基礎の基礎的な技術に近場迷宮の知識と魔物情報を叩き込んだ後……
ひたすら経験を積ませるための修行じみた迷宮踏破をさせるはずだ。
ぶっちゃけ圧倒的な経験不足なので。
ジャグナーが迷宮魔物討伐訓練と称してガンガン危険な区域に軍員の特訓として行くのも経験積みのためだ。
万が一でも死ぬことはないようちゃんと強さのバランスを考えたところにして事故があっても回復できる体制にしているはずだが……
最終的にジャグナーについてこられるものはいなくなるとか。




