新章 神の誕生 二百七十二生目 不備
こんばんは私です。
今日は魔王フォウから一報が入った。
なので私はてくてくと移動している。
こういうスケジュールはホルヴィロスたちが完全に管理していて悩む必要が無くて助かる。
たまに分刻みになるのだけはやめてほしい。
今回は大丈夫だが。
「ほっほっ」
今私は全身を巨大化させ鎧化させたトゲをまとい……
その重装備からたくさんの重りをくっつけて。
ついでに重りを引きずっていた。
さらに必ず移動を跳ぶように意識して蹴りつつ移動。
道行く魔物やニンゲンたちが凄まじく不審がっているものの実害はないので大丈夫。
私のことを知っている相手だともはやいつものことみたいに無視される。
私はもっと対戦技術を学ばなくてはならない。
より真正面から殴り合いしたさいのギリギリ戦術を学ばなくては。
神やそのぐらいの相手と戦うことが増えて理解したがやはり私自身はかなり弱い。
力量ゴリ押し待ったなし。
属性有利とってただ上から勝つ。
それか集団で囲んで叩き込む。
戦法としては正しいが私自身の技術がない。
これでは朱竜に読み負けるのは当然だ。
なので最近は特にあらゆる種族たちのうごきクセや魔法に関する読みを鍛え直している。
魔法というものは発動前に大きなスキを晒す。
実際魔術師同士の戦いでは相手の魔法を読み合い……
そして発動時に乱したり跳ね返したり構造をめちゃくちゃにして不発させる。
……簡単なものならともかく実戦的ではないと書かれていたが。
それはあくまで記した時代におけるニンゲンたちの常識。
現代の私はそのぐらいやれなければ徐々についていけなくなる。
あの宇宙空間で戦った魔王戦の時にとても良く感じた。
みんなの能力は私ほどではないはずなのに……
私を上回る能力持ちだった。
技の組み立て読み合いを全力でし続けられるように思考しないと。
痛いのは嫌だし戦いになるとかたまりがちだしまだドライに頼っている。
だからこそもっと最適行動を身体で判断できるようにしなくては。
色々と悩んだものだけれどだんだんと割り切れるようになってきた。
蒼竜たちがあんな感じに根が違っても……
私は私でやることをやって生きていけばいいんだ。
怖がる必要も貶す必要も多分ないさ。
というわけでひたすら私は今駆けているのだが……
なんというかさすがにおかしい。
待ち合わせ場所にいないと思ってにおいをたどっているのだが。
最初は気のせいかと思っていたニンゲンのにおいがずっとフォウと共に続いている。
あまり覚えのないにおいだが……
フォウと一緒に遊ぶ仲なのかな。
ただ移動を続けていたらどんどんおかしな場所に来ている。
建物は減ってかわりにまともな資材と建築技術のない掘っ立て小屋量産。
通りも裏側だしやたらとみんな目がギラついている。
そして種族構成がほぼニンゲン。
ひとことで言えば治安が悪い。
これが最近話に上がっている……おっと。
さらに1本裏に入る細い道へにおいが続いていてそろそろ近い気配。
残念ながら今の状態ではこの中へ入れない。
「よっこいしょ」
身体を元のケンハリマぐらいまで縮め鎧針をひっこめた上で重りたちを外す。
ふうっ身体が軽いっ!
これ以上たどり着かなかったら"以心伝心"で念話しようと思っていたからちょうどいい距離だった。
「うわあっ!?」
「鎧戦車から魔物!?」
「ああ、恐ろしや……」
周囲のニンゲンたちを驚かしてしまったらしい。
ただなんか反応が若干おかしいような。
いまのを見て逃げていくなんて。
細道はニンゲンひとりがなんとか入れる程度の細さ。
しかも整理されておらず曲がりくねっている。
雑に積まれた荷物たちをうまく崩さずに通り抜けて……と。
ニオイはこの先の区画からだ。
ちゃっちゃっと走り抜けた先には……
「さっさと積めろおらぁ!」
「アニキ、本当にこんな弱くて変な魔物売れるんですかい?」
「ばかやろう、弱くて変だから売れるんだ。強くてたくさんいる魔物は鑑賞するお偉いさんたちにゃ不向きだろがい!」
「へ、へえなるほど、その発想はなかったですぜ」
「うわあああ!?」
思わず見た光景に叫んでしまった。
袋詰され足だけ見えているフォウ。
全然知らないニンゲンたちふたり。
馬車……ではなく自力で組んだらしい人力車にいくらかの荷物とフォウも積まれようとした瞬間に来てしまった。
何をどう見ても魔物攫いである。
攫おうとしているのが魔王とも知らず。
「「誰だっ!」」
当然見つかるわけで。
仕方ない悪いのはどう考えても向こう。
鍛えた技術でフォウを返してもらおう。




