二百六十五生目 特別
翠竜が渋い顔をした。
というより皆まだ良くわからないことが多すぎて私と蒼竜を見比べている。
品定めするというよりかは……何が起こっているのか見極めるために。
「私の前にいた神使も、ここに来られていなかった……」
「極稀に、蒼竜も神使をつける時があった。なんの気まぐれかはわからんがな。ただ、極稀に、だ」
「わっ!?」
私の言葉が朱竜に拾われるとは思っていなかった。
私のリアクションを意にも介さず話を続ける。
「ただの小間使いが欲しいときに作るようなものではないのだろう。何を求め、何が狙いだ」
「酷いなあ、疑われても僕が真面目に働いているって分かるだけだよ? ただ暴れまわるだけの朱竜とは違ってね」
「あー、おいやめろ。話が進まん」
「いい加減明らかにしても問題はなかろう。おまえさん、どうやって神使を選んでいる?」
翠竜はみんながなんとなく聞きにくいところをズバリと斬り込むタイプらしい。
私はよくわからないが……
神使のいるいないというのには何か意味があるのだろう。
そしておそらくその基準は各々に守られている。
なにせそれを悪用して他者の神に攻撃できてしまうと厄介だしね。
曖昧にはわかっていても決定的ではない……と。
みんな蒼竜へと真っ直ぐな目を向けた。
ココでの逃げを許さないと言った強い目線。
蒼竜はその腕を頭の後ろへと組む。
「うーん、まあ良いよ。なんというかたまに勘違いされているんだけれど、僕は別に朱竜みたいに神使をなしにしている状態を、良しとしているわけじゃないよ。むしろその逆……積極的に候補者は探していた。魔王騒動よりもさらに前から」
「積極的に探していた割には、随分実りが少ないようだが、ちゃんと回収しているのか? どのようなものであれ、手入れをして水と肥料をやり外敵から守らねば、立派な信徒たちは実らぬぞ! ハハハッ」
金竜が肉を喰らい笑う。
金竜はどうやら徹底的に関わっていくタイプの神らしい。
神使たちの顔を見るにすごく助かった思い出があるのか金竜への熱線が高まる。
「金竜は過保護なのですよ」
「自分の尾を差し出したのは流石にどうかと思ったぞ」
「あ、あれは、ああしなければ魔王に完敗してしまうから仕方なくだなぁ、それにたった10年程度で完全に生え変わるから、そこまで問題でもあるまいなっ」
「本筋に戻しましょう。蒼、あなたは?」
「なにも」
たった3文字。
わずかなつぶやきながら途端場に寒々しい霜がおりてきたかのようだった。
「なにも、とはなんじゃ? まるで氷蒼のは神使や神使候補それに信徒に対して、何も還元をしていないように聞こえるが……いや、少なくとも、身体は山に同化させて、提供しているのであったのう」
「まあ、そのほうがみんな暮らしやすいからね。そこはそこさ。でもまあ、僕が何かしているわけではないんだよね。僕を慕ってくれるのはありがたいけれど、僕から何か返すことはない。それは神使候補や神使にも同じさ。ただ僕は、待っていた」
「蒼、それで良く仕事をしているなどと……」
「……なるほど、託したのか。虫けら共に」
ここで意外にも朱竜が本意を探り当てた。
そのことに驚いたのは私だけではなく蒼竜たちもだったらしい。
思わず朱竜のほうを皆見る。
「驚いた、朱竜に理解されるだなんて。まあ僕はそもそも、神という存在の過干渉というのは良くないと思っている。神なんて在るだけで良い、それ以外はありがた迷惑なんだ」
「理解などしておらん。貴様が虫にかける情熱はまるでわからんからな。思い入れるほどに放置するなど、正気の沙汰ではないだろう」
「正気、に関しては我々誰もそれを証明できんからのう……」
「まあ、蒼の方針そのものはわかったが……その、まさか今まで神使候補が神使にならなかった理由とはまさか……」
「うん、まあ僕が神使にしたいなあってみるのは、とある理由で神ではないからね。彼らはちゃんと育つ前に潰れるかつまらなくなっちゃうんだよね」
なんだか私の事なのに他人事のように聴こえる。
それほどまでに私が蒼竜を甘く見ていたかもしれないと実感させられていた。
少なくとも私が特別扱いされていたり……もっと優しかったりなど。
少なくとも見えていたと思っていた部分が単なる泥沼で。
実際の底は今だ見えない。
「お主、まさか神使候補たちすら見殺しに……!? そう言えば先の魔王復活も蒼大陸内での事だったのう……なぜ放っておいて環境を荒廃させたのじゃ……!」
「そこは本題ではありません……大事なのは、蒼、お前はどこから神使候補を選ぶ……一体何を基準に?」
「生まれる前さ。そこで特定の魂だけ引っ掛ける。この議題に最も適した魂のみをね」
――場が凍る。
いやもしかしたら凍ったのは私だけかもしれない。
それほどまでに身体の芯が冷えた。
私にはわかった。
蒼竜が欲しがっているもの……その基準を。




