二百六十三生目 蒼竜
朱竜が来た。
破壊行為についてみんなに朱竜が咎められるもののほとんど無視。
みんなもいつもどおりなのかそれ以上は何も言わなかった。
あとは蒼竜が来れば全員か。
ぶっ壊された机も直されて行き一応は何事もなかったかのように戻された。
唯一朱竜が新しく壁に背中をつけ立っていたが。
「後は……」
「おや? 全員揃ったようだね、じゃあ始めようか!」
声のしたほうを全員が振り返る。
そこには入り口の扉を開けて普通に入ってくる者。
……蒼竜。
ニンゲンのような姿勢で帽子と角。
どこで買ったのか決まった服を着込みいつもと違って耳や体もドラゴンに近づけている。
まるで正装とでもいわんばかりに。
服から伸びる手足は鱗に覆われ鳥の……いや恐竜の足みたいだ。
尾は太く非常に長く祖銀と違って宙に浮かせ背中側に羽毛が生え揃っている。
目元に赤い化粧。
こんな蒼竜は初めて見た。
相変わらず不敵な笑みを浮かべ帽子を手で抑えてポーズを決めている。
露骨に朱竜の機嫌が悪くなったのを見逃さない。
こんなにも変化した姿を取るだなんて……
「初めて見た……蒼竜が竜の姿をするだなんて……」
「やあやあっ、どうかなキメてる僕は、イケてるだろう!?」
「うわあ」
あれの神使だとは思われたくないなあ……
見た目だけならすごくサマになるから黙って直立していてほしい。
そうして場の空気が最悪に軋轢を生み力がほとばしって私の身を震えさせ……
……るのかと思ったのだが。
全員揃った途端に何も感じなくなった。
私がおかしいのではない。
明らかに先程まで身構えていた神使たちも身構えなくなっている。
朱竜がイライラしだしたのにもかかわらずだ。
「これって一体……」
「5大竜が揃うって言うのは、調和が取れるんだ。取れた調和は、わたしたちを守ってくれる」
「すごい……」
「だから、5大竜なんだ。ただ力があって支配しているからだけではない、揃うことで全て調和される」
レグリアがすかさずフォローしてくれた。
ただレグリアはほとんどこちらを見ず蒼竜が歩いてくるのを見る。
蒼竜は神使たちが割れるように道を譲ったところをゆっくりと歩いて渡り。
そして堂々と椅子に座った。
まあただゆっくりと普通に座っただけなんだけれど。
それだけで場の空気が締まったので面白いもんだ。
面白がっている場合ではない。
その中に私も含まれているのだから。
「じゃ、始めよっか!」
「全く、最後に来ておいて何もなしとはのう……相変わらず大胆というか、つかめぬというか」
「銀神、蒼神の事は捨て置き進めろ。貴様が今回の発起者だろう」
「わかりましたよ。席についてくれるともっとスムーズなのですが、座っている方が少数派なのでこのまま進めます」
座っているのは祖銀と蒼竜のみ。
他は立っている。
もうめちゃくちゃだなこの会議……
蒼竜の登場で何か神使たちがあれこれ言うかと思ったがそれよりも前に会議自体が始まるらしい。
神使たちは少しずつ分散していく。
話は気になるがあくまでパーティー形式は続けられるらしい。
私もさっきまでの気迫で喉がかわいた。
お茶でももらおう。
「蒼、今回はお前の話が中心です。わかっていますね?」
「おや、そうなのかい? まあそうだろうとは思っていたけれどね」
「はぁ……いちいち付き合う気はないので正面から問いましょう。あの日の結び、この言葉、あの事ですよね? デタラメではないと?」
「おやおやっ、祖銀に話すんじゃなくて、朱竜に話して欲しかったのだけれどねっ」
神使たちのほとんどはよくわかっていなさそうだが蒼竜と祖銀以外の5大竜は真剣みのあるにおいが一気に増した。
そして……数少ないいくらかの神使たちも。
特に分かりやすいのは私の側にいる……レグリア。
僅かなものだけがあの言葉の意味を知っているわけか。
「我にだと? 巫山戯た真似を……我が蒼神の虫に手を出さぬようにか? 腑抜けた事を」
「それでも、例え朱竜としてもその言葉には縛られる。だよね朱竜!」
「ッ……!」
「煽るのは止しなさい、そしてここで力を使うのは禁じております。そのためのこの場です」
「クッ……」
蒼竜がヘラヘラとしているのに朱竜が拳に炎を溜めようとして……
銀竜の言葉から発せられた光でかき消される。
まるで力が抜けたかのようだ。
すごいギリギリの攻防なのか子供の喧嘩なのかわからなくなってくるな……
今のは銀竜の言葉が何かの力を持っていたのは確かにわかるのだが。
「でも氷蒼の言葉だなんて信じて良いのかのう。こやつは平気で他者をたぶらかし、儂らすらも欺こうとするかも知れんぞ?」
「ひどいなあ、だからこうして連れてきたんじゃないか」
「ふむ……さあ、机の近くに来てご覧。儂らはお前を取って食わんわい」
「……えっ、私!?」
飲んでいるお茶噴き出すかと思った。
何でこんな……こんな場所で。
中央に呼び出されなくちゃいけないんだ……!




