百三十一生目 風切
「な、何を……」
「動くなよ……動いたら最後の魔法を爆発させて"私"はワープするからな」
"私"はタカへ詰め寄り舌なめずりしながら接近する。
背に飛び乗り一歩一歩踏みしめた。
そうして多数あるうちの出血箇所を寄り――
舐める。
やはり血は良い。
「痛ッ!? 何を!?」
「治療だ動くな」
実際に間違ってはいない。
刺さった針を抜き聖魔法"トリートメント"もしているのだから。
だがまあやはり麻酔無しでガンガン縫われるように痛いだろう。
もちろん"無敵"の上乗せも忘れない。
詳しくはわからないが"ヒーリング"に上乗せした時と効果は似たようなものになるだろう。
そう直感が告げる。
対話可能へ、とね。
"私"というよりかは普段の私の意見を採用している。
別に"私"としてはぶっころがしても問題ないのだがそれはそれとして『癒やし地獄』の反応も見てみたかった。
血も舐められるし問題ない。
「くそっ、痛っ!? お前、本当にいだだだ!!」
「傷が塞がって生命力が戻ってるのは感じるだろう?」
「そ、それでもぐああぁぁ!!」
敵を見て傷つけられる痛みは覚悟や慣れで痛みを無視できる。
ただまあ見えない背後からの治療痛は我慢出来ない痛みだろう。
野生生物らしからぬ悲鳴をタカは上げ続けた。
まあ"私"がたっぷり時間をかけて治しているからね。
やられたら100倍返しだ。
今の"私"の笑顔は実に悪魔的だろう。
お、先程の空間のねじれで曲がった翼か。
さて、こいつは痛そうだぞ。
悪魔こと"私"の治療が終わって交代。
私にバトンタッチだ。
あーもう本当に自分とタカの血だらけだ。
色んな回復を重ねておかないと。
"無敵"6しっかり入ったらしく私が爆弾魔法を解除しても襲ってくることはなかった。
いやまあ終わった後は地獄の責め苦にあったかのような状態でとても反抗する気は起きなくなっていたようだが。
私はアヅキとドラーグを回復しつつ話をする。
「いやあお見事でした。あのタカを何やら不思議な術で大人しくしてしまいましたね」
「なんだかさっきまでスゴイ悲鳴を上げてましたね……」
「何が望みだぁぁ」とか「やめ、やめてくださいぃ」とか悲鳴上げてたものね……
"私"は鬼だ。
そこまで私は言ってないのに。
「……」
今や傷は癒えた。
だがもはやくたばっている。
私たちはそのタカの前に座った。
巨大で見上げるほどの巨体だがもはや何の圧力も感じない。
「それでなんだけれど」
「ふぅあっ!?」
まだ何も話していないのに凄くビビられた。
「いや痛めつける話じゃなくて……さすがにこのままさようならとするのは私たちにあまりに不利益だから、その話をしたくて」
戦いの途中でカバンは紐がボロボロ。
首に巻いたスカーフはみるも無残。
そもそもアヅキたち含めてたくさんの傷を貰った。
「くぅ……ニンゲン達から『矢風』と恐れられた俺がこんなに……」
「うん? ニンゲンたちの言葉がわかるの?」
「いや……ただ思考を少しは掠め取れる」
タカによるとスキルで言葉の『意味』を思考で少し拾えるのだとか。
意味なので言葉はわからなくとも自身の言語に変換するのだとか。
「『二つ名』だの『矢風』だの単語は拾える程度だ」
「二つ名……確かニンゲンがその種族の中で特に強い相手につける名前だっけ」
「なるほど、まあ挑んできたニンゲンたちは返り討ちにしてきたのは事実だ」
それにしても先程の痛みを警戒はしているが変に態度を崩したりはしないな。
強さもそうだし仲間にしてもおそらく管理しきれない……
でかすぎるし。
「まあ私たちに負けたがな」
「ぐぬ……」
「まあ勝ったのは私達だしとりあえず要求。その1は私達や仲間への非交戦。名前を出した相手に襲わないように」
「ソレは良いが、お前の名前は?」
「種族名がケンハリマ、個体名がローズオーラ」
その2は要請されれば協力すること。
「そのさいはそれなりの対価を出して雇うよ。まあそれなりだけどね」
「お前たちのために働くのか……」
「嫌なら先程の続きをやるか?」
「それだけはやめてくださいお願いします」
前言撤回。
もうあの上に立とうとする態度崩しまくってるがな。
スゴイ真顔でそういい切ったあたりからも心からの願いなのがわかる。
「ああそうだ、協力という面だが俺の羽根を幾つか持っていくと良い。
ニンゲンたちには『価値』があるらしいからな」
「それを魔物に言う……?」
「まあな。だが『使える』とお前は思っているようだが?」
正確には使えるかも、だ。
提示されたさいに思考を走らせるとそれすらも少し読み取られるのか。
これほど交渉がやりづらいとは。
まあ彼の羽根は頑丈で電撃を流し柔らかい。
ニンゲンたちが使えるのならユウレンが有効な使用方法を知っているかも知れない。
風切羽をいくつかもらった。
ちなみに魔物だからすぐ生えて来るとは言え風切羽は数本なくなるだけで飛び辛くなるそうだ。
いわゆる鳥の命だ。
大切にしよう。
そして無くなったらまた取りにこよう。
「まったくお前たちみたいなのがいるとは災難だった……」
「こっちも随分災難だったよ……」
「じゃあな、ここらへんにいるから要請があったら言ってくれ」
そう言ってタカは空へと飛んでいった。
道中で倒してきた魔物たちより被害が大きい分、色々と見逃すのに条件を足したなぁ。
まあレベルも上がったしこんなものだろう。
それにしても『二つ名』か……もしやかなり強かったのだろうか。
トラブルはあったがようやく山の崖までこれた。
見降ろせばそこはいくつもの梯子がかかっている。
冒険者たちのものか。
足場ともいえない崖の出っ張りに木材を打ち付け頼りない足場程度が作られた下までの道がある。
一番下の地面の先に迷宮への道があるのだろう。
さてそれでは……
「はいローズ様」
「では行きましょう」
私はドラーグに抱えられる。
アヅキとドラーグは翼を動かし崖へと飛んで落ちて行った……