二百五十九生目 遊覧
蒼竜の神使は私しかいなかった。
「そ……そんなあっ」
確かに蒼竜山の上にいたのは蒼竜が創った相手で正確には神使ではなかった。
酷い酷いと思っていたがココまでか。
3グループということはもうひとついないのは朱竜だろう。
朱竜は絶対そういうのを作らない性格だから。
「まあでも、だからこそやれることもある。そうだ、ここの大きなルールはね……力を使っていたずらしないことだよ」
「う、うん……?」
まあようはバトルするなということだよね。
それならまあ……
と思っていたら私を引き連れレグリアがグングン歩み。
みんなから見て1番目立つ前まで来た。
そうして。
「みんな聞いてくれ! 彼女こそが、蒼竜唯一の使い、ローズオーラさんだ!」
「えっ!?」
ざわつきが一瞬にしておさまる。
レグリアの方に視線が向いて……
私の方に視線が向き直る。
「な、何を……」
「おお……あの蒼竜の神使が!?」
「蒼竜が神使をとったという噂は本当だったのか!」
「朱竜とどっちが先に取るかと思っていたのだが……」
そしてざわめき出す。
私に向けられる視線はまさしく値踏みのもの。
何名かは"観察"系統のスキルを使っているのかも。
私も癖のように使うから文句は言えない。
というより……
ちゃんと着込んできてよかった!
「蒼竜の神使だとしたら、小さいな……」
「今回はニンゲンではないのか、一貫性がないな」
「ヤツは……もしや……」
「ちいっ、賭けは負けたなあ、朱竜の方が先だと思ったんだが」
「お前もう賭博神やめろ、常敗してんじゃねえか」
……なんだかざわつき方の種類が変わったような。
もしや。
賭けの対象にされていました?
「あらあ、また勝っちゃった?」
「やばあああい! 長年の賭けで勝敗が決まってしまうなど!! こういうのは、終わらないから良いのではないですかぁぁ!!」
「騒がしいよ」
「よーっす、温血さんよ、こんなんだけどよ、まあ仲良くしようや」
どんどんとわいわいガヤガヤしてきた。
と言うか温血さんってもしかして私に言われた?
だとすると鱗人種かな。
そして違和感の正体に気づく。
みな翻訳するでもなくそのまま言語が理解できている。
特別な結界が使われているかもなあ……
「ほら、みんなある程度は選ばれているからね。団欒としている間は良いものだよ。わたしのことはともかく、輪に加わってきたほうが良い」
「あ、ここまでありがとう」
「何……会議はまだ始まってすらいないのだから、今のうちに楽しんでおくんだ。滅多にない神使同士交流の機会だからね」
「う、うん……」
なんなんだ不穏な言葉は……
でもきっとすぐにわかるんだろうな。 なんとなく察せられる。
この場も異様だが結局はまだ本番ではないからだろう。
レグリアと共に会場へ合流する。
そこからは一時夢のような不思議な時間だった。
「やあ、アンタも魔獣タイプか、何の神なんだ?」
「なんの神か……あまり考えたこともなかったなあ」
「そういうものさ、やがて少しずつなにかになっていく。何かにならされていく。何かから変わっていく。思っても思わなくてもな」
金竜所属の獣人系神たちと立食を楽しみ……
「我々は翠竜様の使いであり、エレメンタルとして込められた魂ある神たち!」
「たまに言われるが、ニンゲンたちの低階級なゴーレムと、根が違う。少なくとも、我々は、貴殿らを、対等だと捉える」
「つまり私等に命令するバカが尽きないってわけ。おたくはそういうことしなさんないでよ」
「は、はい」
「それがわかったところで、さあ踊りましょう」
翠竜の使いである物質系魔物たちとダンスを楽しみ……
「温血はたまにやるが、我々に接しすぎないでくれ。いや、温血が悪いわけではないが」
「少しなら良いんだがなぁ、ぶっちゃけかなり熱いんよ。低温やけどになるわい」
「それは……なんとなく聞いたことあります。種族にはよるそうですが」
「うおおお!! 気持ちはこんなに銀竜様へと燃えている!!! 冷たき炎こそが良き心だ!!」
「お前は冷た苦しいんだよ……」
銀竜の使いである神たちは鱗人。
彼らと共に団欒を楽しんだ。
正直最初は神の集団にいきなり放り込まれた餌くらいの気分でいたが周りが優しかった。
なにせ神ってアクが強すぎて殴り合いでしかどうにもできない相手が多いし。
彼らはちゃんと問題を起こさないと選ばれているゆえだろう。
「やあ、パーティーは楽しんでる?」
「レグリア。それは楽しんでいるけれど、これはいつまで続くの……?」
「5大竜が揃うまでさ。彼らが来るまで僕らはしばらくここで休む。本番に備えてね」
5大竜が揃うまでか……
レグリアが小声で「半年待たされたことも……」って言ったのを聞き逃さなかった。
知っているだけでも蒼竜も朱竜も来ないタイプだから不安だなあ……!




