二百五十六生目 雑誌
イタ吉と共にカフェにいる。
私はちまちまトロピカルなジュースをのみつつ。
ちなみに酔う成分は入っていない。
イタ吉はクッキーを食べていた。
「十六無限ねえ……」
さっきイタ吉が言っていた十六無限なるものはイタ吉が持っている本に書かれている。
おどろおどろしく書かれた文字には。
[積み重なった迷宮数は計測上最低でも10と6層!! 10どころか8階層以下は未帰還の地!!?? 無慈悲な環境変化に地獄なような魔物の強さ、そして帰還妨害!!! 待ち受ける宝は数しれず!?!? 最深迷宮十六無限!!!!!!!]
凄まじい誇張数。
ああいう本こっちの世界にもあるんだなあ。
ただまあ十六無限自体はとても有名な人類未踏破迷宮だ。
皇国からはるか南東にある大陸に存在する大密林。
そこにある超巨大樹ワールドツリーというもののふもとに存在する迷宮群の名前だ。
森の迷宮と火山の迷宮みたいに迷宮の奥に迷宮が発生することはあるのだが……
この迷宮はそれがなんと確認できるだけで16もある。
人類が踏み込めた情報が帰ってきているのは8層まで。
なお生きて帰ってきたのはたった6層まで。
人類未踏破迷宮として国際認定されている迷宮の華々しい話とは裏腹に現実は死屍累々としている。
強烈な冒険体験と引き換えに死を引き渡してくれる場所に冒険者たちは挑むことを諦めない。
ニンゲンたちは謎に挑み続けなければ種を繁栄させられなかったゆえにだ。
「そいやどこの場所にあるんだここ?」
「めっちゃくちゃ遠い。まだ私達が行ったことのない大陸だね」
「なんだあ、ちと見てくるってことも出来ねえのか」
まあ現実的ではない。
というかちょっと行ってくるつもりだったのか……
イタ吉はページを読みすすめていく。
「ふーん……ん? なあ、この迷宮は?」
「どれどれ?」
"鷹目"を使って本を読ませてもらう。
この迷宮は……なるほど。
[激しい光は闇をもたらす!! 見えぬ光の奥には何があるのか!!?? まだ見えぬ先に真なる宝があるのか!?!? 輝く世界に悍ましい力を持った魔物たち!!!! 光貴の迷宮が君を待つ!!!!!!]
ここは知っている。
祖銀竜がいる場所だ。
ここで暮らして研究を続けている。
ただ……
「な、面白そうじゃないか?」
「そこ、行ったけれどほとんど眩しいか私より数倍強い奴らが待ち構えているかの2択で、良いものも落ちていなかったよ」
「ウゲッ、最悪の集合体じゃないかっ」
割と地元ではあの迷宮は最悪と評されていた。
この本が元々煽ることを目的としているからこういう誇張が多い。
地に足のついていない情報でスキップして向かったらひどい目に合うということなどよくある話だ。
「ローズより数倍強い奴らがいるとか単なる嵐じゃねえか……」
「そこっ!?」
「別に死にに行きたいわけじゃないんだぜ」
イタ吉の考えそのものは妥当なんだけれどもなぜだかあまり納得行かない……
まあいいか。
ジュースおいしいし。
「じゃあ……っと」
イタ吉は今度は一気にページをめくっていく。
だいぶ本への信頼価値が下がったらしい。
パラパラッと器用に爪先でめくって……
1つのところで止まる。
「……なんだこの迷宮?」
今度はイタ吉がこちらに見せてきた。
ええと今度は?
[朱の大地に現れし難攻不落の要塞!!! 誰が建てたか殺人砦!!!! 謎が謎を呼ぶゴーレムたち!!!! 不落要塞遺跡!!!]
「あれっ、これ迷宮じゃない」
この本迷宮の紹介だけかと思いきやそうじゃなかったのか。
なぜならこれは。
「ん? 迷宮じゃないのか?」
「うん、遺跡だよ。本来は冒険者初級者のニンゲンたちがいくところだけれど、私達迷宮出の魔物だから、馴染みは薄いよね」
「ああー、なんか聞いたことあるなあ、でも初級者がやるやつじゃなかったのか?」
「そうだねえ……でもこの本、危険な世界の名所を紹介しているんだよね? 多分普通に行くのは困難なんじゃあないかなあ」
実際のところ本にもまず空からでないと進入不可だとか着いたところで入ることが困難だとか入ったところで罠にすり潰されるだとかおどろおどろしく文字が踊っている。
どこまで真実性があるかは不明だが話半分だとしても遺跡にしては異様に難易度が高い。
そして何より。
「この朱の大地って今ローズたちが集中的に攻略しているところだよな?」
「そうだね。情報を集めながらカエリラスに準ずる組織を狩っているよ。ただ……朱の大地ってちょっと理由があって、本来昔の建物はほとんどないはずなんだ。それなのに遺跡があるだなんて……」
「マジか、やっぱ何かいわくつきってことか」
どうであれただの遺跡ってわけではなさそうだ。




