百三十生目 爆弾
いわゆる上位に立つものと言う振る舞いが消えたタカはおぞましかった。
スマートに決めるとか次のためにとか考えていない今を生きるための猛攻。
狩猟者から血泥にまみれた獣へ。
そして今狩られる者へ落ちようとしている。
「何故だっ! 何故俺がここまで!」
「お前が主に……私たちに襲ってきたからだ!」
「何!? 言葉が!? ……何かの魔術かっ!」
アヅキもタカも血に塗れ殴り蹴り電撃と風が行き交う。
ちなみにドラーグは流石にもう限界で防御に徹している。
タカのなりふり構わない猛攻の中に立っているだけでも奇跡的だ。
蹴り上げ振り下ろし突いて風の魔法を纏わせた翼で切り裂き回転する。
一撃一撃に行動力を込めた大暴れ。
巨体が動くだけでその場は地獄と化す。
アヅキもガントレットで防いでスキを見つつ少しだけ攻めるのが限度。
地形がえぐれ岩が砕け空は魔法の輝きで瞬く。
この地獄でやりあえるアヅキは確かに強い。
このままでは押し切られるがそこは"私"がなんとかする。
ギリギリまで気配を消して準備した秘策。
普段の私がたまたま発見して『これはやばい』と試し撃ちを止めた代物。
魔力は混ぜ合わせられる。
スキルは組み合わせられる。
なら魔法もいけるよねという実に単純な思いつき。
前世知識からイメージし土魔法と火魔法の組み合わせ。
"投石魔法"プラス"爆炎魔法"!
混合させた魔法が3つのサッカーボールほどの岩を生み出す。
「さあ、喰らえッ!」
「何ッ、まだ生きて……」
1つを魔法で打ち出し向かわせる。
当たれば当然痛いが……
『アヅキ、バックして"防御"』
『はい!』
"以心伝心"の思念で指示し……
「当たるか! っお前、俺と同じ言葉を……」
「そういう能力でね」
顔面へと投げつけられた岩を回避される。
無念にも岩はタカの背後へと落ち――
「まあ、というわけで」
ドガァァン!!
激しい音と共に爆発した!
岩が爆風と共に赤熱したまま飛び散る。
それをまともに背で喰らうタカ。
爆炎だけでも地面をえぐるほどで背を焼き叩きつける。
岩の破片が貫き刺さり切り裂いた。
事前に下がったアヅキすらも勢いに押されるほどの圧力。
タカはその巨体が無惨に吹き飛ばされる。
まあ言うまでもないがこれは爆弾だ。
魔法でそれっぽいのが出来てしまった。
しかも混ぜ合わせた影響かそれぞれの力がぐっと増している。
確かに慎重かつ高い威力を込めるように時間と集中力をさいて作ったが出来てしまえば破格の威力。
しかも魔法で作られ宙に浮いたままあと2つ。
「さて、まだやるかな?」
「こ……の……まだ……!」
必死に立ち上がるか。
コンディションは最悪だろうに意思は消えていないか。
ぽいっと。
ドガァァン!!
山だからか良く爆破音が響く。
今度は直撃させた。
(え!?)
大丈夫だ普段の私、うるさいから"峰打ち"だ。
まあ生命力はギリギリ残っていても全身がボロ雑巾のようになって悲惨な事になっているが。
仰向けに倒れていたタカはそれでも羽ばたいて無理やり身体を起こす。
よしやっぱトドメ――
(いや無益な殺生はする必要ないでしょ!)
冗談だよ。
(どこまでが……?)
まあ同じ"私"だし普段の私でもノリツッコミぐらいで済ます時点で本気じゃないのは分かっていたでしょ。
ただタカが"私"レベルで心がしぶといっぽいのがわかっただけで十分気に入った。
「さて、いい加減頭は冷えてくれたかな?」
まあ"読心"で大方わかっているけれど。
「わかった、やめてくれ、もういい、言葉が通じるんだろう? ほら、もう、俺の……負けだ」
目(治療済み)の仇は取った。