二百四十八生目 指導
この世界は昔錬金術がそこそこ盛んなのは判明した。
しかし語感で残っているのは薬剤師の調合方向くらいで。
ナブシウのいう万物を操る力とは程遠かった。
「ナブシウとしては、クオーツに錬金術を学んでほしいの?」
「ううむ、むしろ今は錬金術が外界で死に枯れた扱いになっていたとは……錬金術まで扱える種族はそこまで多くはなかったはずだ、故にニンゲンたちの錬金術が消し飛んでいるだけでもかなり手痛い……」
「あ、あの、わたくしがここから離れずにやれることでしたら、色々やってみたいかなあって……」
シュンと落ち込んでしまったナブシウ。
派手に感情を動かすよりもいたたまれなくなる。
クオーツが助け舟を出すのもわかる。
「そもそも、なぜ錬金術を? ナブシウの信じる神様の力になるとか」
「いや……まあ我が神は何でも出来るから錬金術も我が神の力ではあるが、理由はもっと矮小なものだ。錬金術とは、私が神にいただいた力の中でも重要なもののひとつでな」
錬金術……そういえば初めて見せてくれた時も結構自慢げだったか。
錬金術はナブシウ自体もかなり得意……なだけではなかったのか。
「この肉体そのものも錬金術を駆使し本来の脆弱な肉体を捨て去った結果だ。その能力を私にも授かる……それは、物質そのものではなく、能力を授かるというのは、格別期待されているようで非常にうれしかった……」
なるほど……なんとなくそれはわかるかな。
ナブシウは傍目から見て溺愛されるほどにすごい物を与えられていた。
と言うか迷宮1つ渡されている。
あふれかえるほどの物を与えられた子が価値を最終的に見出すのは自分で何かを作るものと言う話はわりとありうる。
ナブシウにとって何でも作り出せる錬金術はナブシウの神から託された信頼そのものに思えたのかもしれない。
「自分の使っていたものが、世間的にはぜんぜん知られてなかったってなると、ちょっとショックですよね」
「そう、別に我が神の偉大さは1つもブレることはない。しかし、私としてはこのことはあまりにもあんまりだ」
それもそうか……
そもそも自分だけ数百年取り残されているということでもある。
まさしくウラシマ状態か。
基本的にナブシウはそんなことを気にするタチではないが……
「そうなんですね……」
「ああ、我が神は私に外の世界を見せようとしたのはこのことだったのか? あまりにも気づくのが遅く、申し訳ありません……」
「そ、そうなんですか」
まあ神にたどり着くよねとは。
「にしてもなぜニンゲン界で定着しなかったのか……」
「ヒトにはそのままでは難かったのかもしれませんね。だって、希少なテテフフライトとかが重要になるんですよね?」
「……そういえば我が身やお前は鉱物に近いから気にしていなかったが、他の生物たちは水分が体に多いと聴くな。そんなに水分があれば、錬金術において鎮静の役割を持つ水が干渉して効率が非常に悪かったのかもしれないな」
水……70%も水分のニンゲンには元々錬金術は扱いきれなかったということか。
つまり私にもかなり困難な技術だ。
どちらかといえば鉱石のほうが良いというのは保有水分の少なさからだろうか。
「だったら、余計わたくしが覚えたほうが良さそうですね……! ローズ様にまた褒めてもらえます」
「えっ、いやあ、そんなに働かなくても……」
「我が神から賜ったこの力、叔母のもたらした石から出来たお前に教えるというのも、また我が神に連なるより大きな力の行為……か。なれば、私が教えるのもやぶさかではない」
「わーっ、本当ですか!」
ううむクオーツの働きグセはどうにかならないのだろうか。
周囲からエネルギーをかき集められる環境ならば無制限に動き続けられることを知っているからかずっと働いているのだ。
ゴーレムだって寝ても良いしなんならノーツはたまに機体冷却といって休んでいる。
テテフフライト純粋製のクオーツは本当に止まらなくても平気だからな……
ただクオーツの中身が心配。
前世は単なるニンゲンで本当に肉体についていけているのかが。
「ただしっ!」
「は、はい?」
ピシャリとした声でクオーツを牽制する。
い……一体?
「私が教えるからには中途半端など許さない。我が神に誓ってそのテテフフライトの身にふさわしい至高級の腕前を身につけるまでは逃さん……」
「ろ、ローズ様……?」
「あー……お手柔らかに……」
「よし、決まれば早速だ。お前は今から作る物の材料を、クオーツはこっちだ!」
え。
私も巻き込まれたのだが。
「ほら、これからメモを書き込むからそれを持ってくるのだ。ちょうど買い物の場もあるのだろう?」




