二百四十五生目 石神
競売場がアノニマルースにできた。
早速売ろうとしたらテテフフライトの塊だけは取引実績がないとして過去の履歴が出なかった。
まあ大きいしねえ……
テテフフライトは悩んだ末に出品を取りやめる。
もちろん雑に値段を決めても良いのだが……
その結果は私に跳ね返る。
売れなければ私に返送されてしまうし安い額を売りラインにしてそのまま売れてしまえば金額的損をする。
もうちょっと相場というものを見極めよう……
他のは適当に額を決めて伝える。
「では、承りました。この券は個人のお預かり内容を証明するものなので、無くさないように保存してください」
「ありがとう」
冒険者証明証のような1つの券がもらえる。
これは私の取引履歴が遡れるように個人登録された証だ。
これがないと私が預けたという証明ができなくなる。
まあどうせ一定数はなくすだろうと何重かの対策はしてあるのだが……
しないに越したことはないのでなくさないのがもっとも便利。
とりあえずテテフフライトは空魔法"ストレージ"にしまってテクテクと出る。
さて次は買い側へまわろうかな。
どこの列にいけば……うん?
なんだか今列とは別の場所にかぎおぼえのあるにおいが……
「……ッ……」
声もわずかながらする。
ナゼだか知らないが脳内で知り合いだと結びつく。
しかもなんとなく放ってはおけない。
よし行こう。
何この感じはすぐ近くだ。
色々においも音も入り混じっているが対象を絞ってしまえばたぶんいける。
こういう基本的な技術はいつまでも使えるね。
という事で歩いてたどり着いたのは……
人通りから少し離れた物陰。
そこには。
……黒くつややかな毛皮に立派なツノ。
宝石がきらびやかに尾を飾り金の首枷と手械がある者。
そしてそんなきらびやかさはどこへやら顔を前足で覆って小さくなって震えている神がいた。
「うう、き、きいていない、なんなのだこの群れは、我が神よ、お助けください……」
うんまあ。
ナブシウだ。
なんやかんやあってたまに分神がアノニマルースまで遊びに来る。
うずくまっていればもはや単なる子犬である。
実際は私より遥かに永い時を生きた神なんだけれど。
長過ぎる引きこもり生活の末に敵対してこない一般相手が怖ろしくなってしまったらしい。
多少は慣れたが混んでるとこうなる。
「ナブシウ」
「ううう、なんでこんな日に限って他の奴らは来られないのだ。用事とはなんだ、我が神の愛を受けている我を守る以上の用事などあるものか」
「ナブシウ」
「多すぎる……生き物たちがこんなにうごめいているだなんて……おかしいだろ……」
「ナブシウ!」
何度か呼びかけてやっとナブシウの震えが止まる。
そうしてこちらをゆっくり見て。
立ち上がり。
キリッとした表情をつくった。
「なんだ、奇遇だな。お前もここに来ていたのか? ひとりで歩めぬようなら、私が付き添ってやっても構わん」
「ナブシウ……」
あれで誤魔化せていると思っているのだろうか。
いやダメだなあれ。
完全にそういう体でいかないと話進めてくれない顔している。
まあいいかあ。
「というよりもこの混みいりようはなんだ? 今日は祝祭のお触れは無かっただろう」
「ああ、それはねかくかくしかじか""……」
ざっくり競売場について話す。
聞き終えたナブシウはそこまで興味がなさそうだった。
まあそうか。事前に競売場の事知らなかったくらいだし。
「なるほど、いかにも下々の者共が思いつきそうな、飢えたシステムだ。我が神の威光さえあれば永遠に満たされるというのに」
「まあ、ナブシウはそれでいいだろうけれど……」
あいも変わらず不遜な態度にすぐ
自身の信仰話しになっちゃう……
さっきまでの震えていた彼はどこへいったのか。
「初日らしいがお前はなぜここに来たのだ? お前のことだ、別に初日の門出に手ぶらで冷やかしに来たわけではないのだろう」
「うん、まあそうなんだけれどね。既に売り物はしたんだけれど……1つ余っちゃって」
「なっ、もうあの列に並……いやいや、そこは良いっ。余ったものというのはなんだ……?」
「それは……はいこれ」
また魔法を唱え亜空間からテテフフライトの宝石を出す。
とげなしイバラで慎重に取り扱い。
テテフフライトを目にしてナブシウの雰囲気がみるみる変わり……
「な……!? それは我が神の宝石!? どこで、いつ手に入れた!?」
「えっ、え?」
いきなり詰め寄られほぼひったくられた。
まあ前足で抑え込まれたのだが。
一応イバラは離していないが……いきなりなんだ?




