二百四十四生目 契約
知の神ライブラに訪ねた手紙の返事が来た。
まずは仮契約に関してだ。
仮契約は呼び出した相手を見えない綱でしばりつけて指示や行動力送信をする技術だ。
[プライドの高い者は仮契約の状態が嫌いで、条件を許してくれない者がいる。実際わたくしは何度も味わったが、正直気分の良いものではない。わたくしもうっかり知性のない野蛮な猿どもに召喚でもされたとしたらどうするか。まあそこはいい。貴殿も気をつけてその仮契約で相手を見定め給えよ]
何か文面から怒りがにじみ出ている……
ライブラの手紙はこうやってどんどん長くなるのだ。
[そしてだ、本契約とはそんな猛獣と猛獣使いの関係を止めることだ。相手と自分が多少なりとも通じ合い召喚という機会を通して、ある程度長き付き合いになることを覚悟することだ。具体的には召喚士が直接召喚可能となる。そしてやり方は……]
なるほど通じ合う……
仮契約は雑にやっていいけれど本契約は慎重にやる必要が出てきそうだ。
そして肝心の本契約はと。
[搾取の儀と修羅の儀だ。搾取の儀は召喚士が正式に貴殿へ捧げものをすることで発生する。俗称で言えば生贄だ。中身は貴殿が振り割れば良いだろう。例えばわたくしならば新しい本などが良いな]
おどろおどろしい単語が出てきたな……
ちょっとロイドが黒パン渡そうとしてきた光景を思い出す。
少なくともあれは渡されて困るものだったなあ……
[そうして召喚士から搾取したあと、修羅の儀へと入る。召喚士と召喚獣という立場を離れ1対1の戦いになるわけだ。別に方式が定まっているわけではないが、戦闘をするものは少なくないな。召喚士が勝つことで初めて本契約が成立するうえ、召喚獣は修羅の儀をするさい、制限下とは言え本気を出さなくては儀式が成立しない]
なるほどそちらはわかりやすい。
勝負をするわけか。
[そのどちらも、こちら側から召喚士に伝えられる。言葉が通じずとも、結ぶヒモなどを通じて儀をすることを意識に通せる。今度はそうするといい]
話はだいたいわかった。
ちなみにその後は正直聞いていない話がズラズラ語られていたため流し読んで終わった。
次の召喚士はどんな相手か……本契約まで行く相手はいるのか……楽しみだ。
私はまだ知らなかった。
あの都市型ゴーレムに関することにまた関わることになるとは。
こんにちは私です。
今日はアノニマルースに新規設置された施設を見に来た。
初日ということもあり凄い魔物の数。
もちろん魔物にはニンゲンも含まれている。
ちょっとやそっとではこの混み具合は解消されなさそう。
整理しても居なくなるわけではないのだから。
「ここで売れるのかー!?」
「良いのほしいなあ」
「並んでくださーい、順番でーす!」
ここは売り買いをする場所なのだしショップといえばそうなるかもしれない。
しかし近づいていけばそんなところではないことはなんとなくわかるだろう。
なにせ店構えなんてものはない。
かわりに大きな建物にはいくつもの窓口。
まるで何かの券を買ってどこかに入場するようだが半ば間違ってはいない。
ただし買う券は入場券ではなく引換券。
ここは競売場。
誰かが値段を想定して売った物を誰かが値段を予想して買う場所。
皇国や帝国ではあまり盛んではないが海外で冒険者がにぎやかなところだと割とある。
冒険者などの者たちは自前で素材や冒険者の武具を欲しかったり売りたかったりした場合中級者はじめあたりまでは店を通すが……
ぶっちゃけ民間が冒険者におろせるものって大半は汎用品なのだ。
悪くはないが特化していない。
独自のものを揃えたくなるしそもそも中間料が多すぎる問題もある。
普通の店ではさばけない素材もあり管理高難易度ほど難しくなる。
そういうのを一括管理してしまう自由市場がこれだ。
「混雑時用売却窓口です、何をお売りになられますか?」
というわけで時間をかけてここまで来た。
今日みたいに事前から混むことが判明している日は売り場がわかれている。
まずは売り側を体験したくて並んでいた。
窓口はいわゆるだいたいが仕切られていて中とは下側の空間でだけつながっている。
私は空魔法"ストレージ"で出品したいものを並べる。
少し大きいものがあっても係の人が受け取ってくれるので平気。
「はいはい、あらかた分かりました。最近の取引履歴はこんな感じです。ただ、初出品のものもあるようです。参考にして売却金額を決めてください」
「うーん……」
倉庫に眠ってるものを雑に持ってきたのだ。
大半は冒険で手に入ったものなんだけれど。
ゴーレムを作ったテテフフライトの余りも出品しようとしたらまだ誰にも売れた実績がなかった。
というかまああまりとは言え凄く巨大なテテフフライト塊だからね。
そりゃないか。




