二百三十九生目 奥義
吟遊詩人の前にゴーレムの拳が振り下ろされる!
「避けろ詩人!」
「こっちだ!!」
銃弾がのぞき穴の付近に跳弾する。
だめだまったく効いていない。
ただ今のでびくりと肩が動いてパンチが遅れる。
そう言えばコイツ意思はあるのか……?
動いているから操縦されていると思っていたのだが。
「あわわわわわ!!」
当然スキのうちに吟遊詩人は全力逃走。
拳は空振りに終わる。
「お、おいバカビビるな! 中にいるお前らに当たるわけない!」
「アニキ、でも大きい音がしたらこわいものはこわいですぜ」
「頼むぜ、これの操作は意思の統一が重要ななんだ……練習どおりにな……!」
意思の統一……そうか。
もしかして彼らの電力刺激の強弱で変わるのか?
そういえばのぞき窓が光っているときと光っていない時がある。
細かく何か鳴いて言語というより合図しあっているなと思っていたら……
どうやら相当練習したらしい。
頭が良いなあ……ニンゲン並かそれ以上か……
「詩人ー! アイツのこと何か知っているのなら教えてくれ! 何でも良い!」
「とにかく恐ろしく硬いのです! その四肢は建物が降ってくるのと同じですから! 本来は内部にエネルギー供給するものがありますけれど、今は彼らが代わりをはたしているのでしょう! どこからかエネルギーの詰め替え行うそうですが開け方などは知りません、というよりアレに張り付くのは無理です、逃げましょう!」
「そ、それが……」
あっちこっちで殴って避けてを繰り返すせいで爆音が鳴り響き続ける。
ソードマンさんが絶望したような声をあげ続けて吟遊詩人さんも悲鳴を上げた。
先程の出入り口が潰され瓦礫が積み重なっていたのだ。
どかす作業はできるだろうが何十分とかかる。
乗り越えるにしてもどう考えても追撃を食らう。
みな顔が青ざめるのが隠しきれていなかった。
「っ召喚士! ソードマン! お前達が頼りだ……!」
「そうだ……今こそボクが……」
「ああ、ああ! 銃でビビらせつつやってやる、ニーダレス、ヤツを突破する方法を探るぞ! 中のエテエキュを引きずり出せば勝てるはずなんだ……!」
良し。行動力が来た。
魔法を唱えつつとにかく走り回る。
行動力で高速化した走りなら相手の背後を突けるはず。
見た目のずんぐりむっくりと違い上半身と下半身が別パーツでぐるりと向きを変えるためただ動いているだけでは背後をとれない。
わりと意識して壁際にいるし。
「さっきは良くも仕掛けを止めてくれたな! おらああー!」
「ニーダレスに手を出すな!」
「うわっ!」
また銃弾がゴーレムに弾かれるがやはり動きは止まる。
さっき盗られたかばんも取り返したいな……
怯んだスキに懐へ飛び込み股をくぐって背後へ。
「馬鹿め、それで背後が取れるとでも?」
ゴーレムが上半身をぐるりと向けてくれた。
残念ながら背後はとれてるんだよね。
視界だけ。
"鷹目"をあえて置いてきたのでじっくりと背中を見られる。
殴られそうになるのを避けつつ背後の状態を良くみる。
なるほどたくさんの取手があり引き抜けそうな区切りはあるものの何がなんだかわからないな。
少なくともロックが外れないとだめなんだろう。
スキマから留め具が見えている。
このタイプの取り方はどうするんだったかな……
とりあえず遠くに逃げて体制を立て直して……と。
エテエキュの上にいるやつはカバンの中をひたすら漁っている。
そうして取り出したのは。
「ええと……あったあった。ニンゲンたちが使うやつだ。そらっ!」
「ああっ!? 脱出用の品が!?」
電撃をショートさせて火花をつくり取り出した物を燃やした。
今燃やされたのは何かの糸巻きに見えるもの。
しかしモノとしてはかなり重要なもので……
遺跡の入り口までチームごと飛ばしてくれる品なのだ。
つまり……めちゃくちゃまずい。
「んなっ、まさか理解して選んで燃やしたのか!?」
「あの魔物、すごく賢い……」
「ほら、返してやるよ」
「おわっとっ!?」
かばんが乱雑に放り投げられ受け取った吟遊詩人が勢いに負けかばんに倒される。
エテエキュ……かなり厄介だし殺意が高いな。
ソードマンさんは剣を今までとは違う構え方をして静かに光を漂わせている。
恐らくは剣に封じられた技を解くつもりだ。
私は火魔法"エクスプロージF"を"二重詠唱"を発動!
同時にゴーレムの上方を炎の爆発で覆うっ。
「「うわああああーっ!」」
「視えた、スキあり!」
大きくのけぞったゴーレムは無傷ながらもひどく動きが乱れまともな動きをしていない。
それを見逃すソードマンさんではなく……
跳ぶように駆け出す。
私もソードマンさんに続いて仕掛けよう。




