百二十八生目 空中
「うわぁ、すごい」
ドラーグの感心と共に私も着地する。
しかしタカは暴れているもののすぐにでも石をどけてしまいそうだ。
「直ぐに総攻撃を!」
「あ、わかった!」
「行きます!」
散ったふたりが集まってきてその爪や角をスキルを振るう。
暴れて悲鳴を上げる相手を攻撃しまくるがそれでもやはり巨体。
まだまだ元気か。
(よし、今ならいけるな)
そうだね、"私"。
交代!
よし、"私"に主導権チェンジだ。
普段の私はどうしてもこういうときヤりきれないからね。
ガンガン背の針を出していこう。
"針操作"で切り離してからの全身へ刺しまくり!
針を勢い良く刺しまくるだけで実に痛々しい。
しかし忌々しいかな、羽根が大きいのと頑丈なので剣山にしても致命的にはいたらず。
"率いる者"でイタ吉から"気合切り"を選択。
どういうスキルかと言えば『ための後に強烈な斬撃を与える』らしい。
今見た。
ぐっと前足に力を込めてためればキラリと爪が輝く。
まだためて帯びる光が増して……
さらにためたら強くきらめき出した。
今だ!
飛び込むと同時に前足を正面でクロスさせる。
強烈な斬撃が暴れるタカの体を引き裂いた。
ズバリッ!! と羽根を越えて肉が割れる。
傷は深くなく出血も少ない。
まだ致命傷には遠いか……
ついには岩をどけて暴れて"私"達を追い払った。
そのまま空へと飛ぶ。
これはそこそこお怒りモードのようだ。
生命力残量は……まだ1/3もゲージが削れてないか。
3種の魔法を混合させて"進化"の過程をへて魔力をみなぎらせた。
残念ながら姿は変わらないけれどこれで魔法全体が使いやすい。
上空で旋回している間に"私"達を補助魔法で強化。
筋力に体力や頑強と身体そのものを強く。
防護膜追加に武装への炎付与も忘れない。
「うわわ、爪が燃えた! こわい!」
「安心しろ、主の恩恵だ」
ドラーグも頭ではわかっているはずだがどうも慣れないらしい。
ちなみに"私"は背から出した針が全て燃えていて空から見ると炎を背負っているようでちょっと面白い。
もちろん向こうもただ指を咥えて見ていたわけではなさそうだ。
ううむ、纏う気配から察するに……速度強化?
ソレにじわじわ生命力が治っている。
時間をかければ向こうが有利か。
体勢を変えてこちらへ向き合い翼を振るう。
3連射してきたのは風の魔法か!
太い矢状の可視化可能なほどの風が飛んでくる。
何とかみんな避け――
着地と共に膨らんで爆発した!?
真空刃が撒き散らされた!
避けきれずそれぞれみんな浅く刻まれる。
なるほど二段構えか。
「こちらから攻めよう!」
「では行きます。ほら行くぞドラーグ」
「え、僕!?」
「当たり前だ、何のために飛べるのだお前は」
アヅキが半ば無理やりドラーグを説得し共に空へと向かった。
私も"鷹目"で視界を飛ばし機会を伺う。
根本的に飛べないので"ミニワープ"などで近づけても翻弄されるだけだ。
次々と飛んでくる風の矢をアヅキとドラーグが回避して――
空中で爆発した!?
タイミングは調整出来るのか、厄介だ。
アヅキはともかくレベルも低いドラーグはかなり痛そうだ。
ただ先程の補助魔法のおかげで生命力にはまだ余裕がある。
問題は魔法か。
あの魔法は爆発タイミングが任意で範囲が広く連射可能。
連続で撃てるのは4発ほどだがそれだけ撃たれれば危険なことこの上ない。
放たれれば致命傷は避けれてもじわじわ削られる恐ろしさがある。
ドラーグは特に危険だ。
このままでは上昇しての攻撃もしづらいな。
こうしている間にもガンガン放たれている。
だったら……
風の矢が飛ぶ先にドラーグ。
ドラーグが"防御"して衝撃に備えると……
風の矢が砕け散った。
もちろん私がやった。
次々飛ばしてくる風の刃に向かって"私"が射程と速度を強化した"石投げ魔法"を飛来する矢の道筋を計算しこちらの石を投げ当てる。
風の矢が近付く前に撃ち落せば怖くない。
"私"の目は幸い速い物ならば良く見える。
角度計算も今なら余裕だ。
まあ問題は相手がどう出るかか……
「ありがとうございます! よし今のうちに行くぞ!」
「す、すごい……あ、はい、行きます!」
アヅキとドラーグが上昇再開。
タカを"読心"して伝わる感情は驚愕と焦り。
……む、どうやら高速言語ラーニングが終わったらしい。
タカの声も分かる。
「くそっ! 魔法に石を当てて来るだと!? どうやって、ありえないだろ!」
"鷹目"で良く見て"読心"でだいたいいつ来るかを読み"高速思考"で角度を見れば直線的に飛来する物体に当てるのは難しくない。
そう、"私"ならね。
普段の私じゃあ扱いきれなくて多分無理なんじゃあないかな……
(あ、ひどい! 出来るよ! 多分)
普段の私の抗議は無視し空へ集中する。
ドラーグとアヅキが近づけば近付くほど迎撃は難しくなる。
しかしまあ少し撃ち漏らしても避けてはくれる。
ついにはタカと同高度へ。
アヅキが雷を放ちドラーグが肉弾戦へ持ち込む。
対する鷹は小さい竜巻を起こして飛行経路を狭めつつ防いでいた。
アレはハックと同じ風の魔法か。
互いに高速で飛び回りつつなるべく背後や上を取ろうとドッグファイトを繰り広げている。
ドラーグは完全に後れを取っているがそこを狙おうとしたタカがアヅキに狙われると言った様子。
一進一退の攻防。
もちろん"私"は指を咥えて見ている気はない。
空魔法は基本は補助だが危険な魔法もある。
普段の私は便利な方ばかり注目するんだから……
空の激しいドッグファイトに白熱している所で突如景色が歪む。
異質さにタカは本能的に警告が発さられるがもう遅い。
景色ごと引き寄せられ必死に距離を取ろうとするほどどんどん景色が歪み――
その翼の先が歪むと共に軽い音が響いた。
「ぐわああぁっ!!」
『お見事です主』
『事前に聞いたから良かったけれど、恐い……』
景色が元に戻ったがタカの翼の一部は変に曲がったまま。
骨や肉が捻れたのだ、治るにしても時間がかかる。
今の魔法は発動するにも時間がかかるしコントロールが難しく疲れるがまあ威力は見ての通り。
[ディストロイション 空間を捻り巻き込んだ物を破壊する]
必死に飛んでいるタカにドラーグが殴り込む。
何とか避けるが……上空をアヅキが取った。
「ここだ!」
雷で出来た剣がタカの背に深々と下突きされ感電する。
全身が焼けるような電気が走りながらついには上空から地へ落ちる。
地面へ落下する前にタカを蹴ってアヅキが飛び立つ。
今度は"私"が着地地点に"土槍魔法"を乱立させてタカがそこへと落ちた。
グザリ!!
肉を穿つ音と共に血しぶきが上がる。
"針操作"で背の針を引き抜きそのままタカへとさしこむ。
強化された炎付与は刺しこんだ瞬間に大きく発火した。
焼き鳥串だ!!
「うおおっ、やめ、やめろおぉ!!」
本当にこのタカは元気だ。
まだ生命力が1/3残っている。
身をよじり捻って……
無理やり土槍を砕いたッ!?
がむしゃらに突進してきて"私"を脚で掴んだ!
「ぎうッ!」
ミシミシと骨が鳴る中でスキルの力かタカの翼が輝き縦に回転して地面へ投げた。
武技かッ!
まともな受け身も出来ずに叩きつけられる。
痛ったぁ〜……!!
転がったせいで全身が痛い。
もう何が原因で痛いか分からない程度に痛い。
痛い、痛いが死なない。
この程度で死んでたまるか。
前なら死んでたがな!