二百三十一生目 助力
大事に使えよと言われた行動力でゴブリンを癒やした。
傷口がふさがって行きまるで傷が無かったかのようになる。
「「ああーっ!?」」
「ピギエェェ!!」
気が朦朧としていたゴブリンが飛び起きる。
いわゆる魔法による治療痛だ。
ちょうどいい気付けになったらしい。
ゴブリンは私達を見回し。
「なんかわからんけどお助けーっ!!」
泣きながら全力逃走した。
さすがにもう背後から追い打ちをかけるものはいない。
かわりにため息が聞こえた。
「あー、あれですね。ワタクシたちが囲んでいたから、心配していると勘違いしたのですね」
「どう見ても致命傷だったが、あんな元気に……まさかそこまで高度な回復も出来るのか? そんなに大量のエネルギーを?」
「いや、コイツには少ししか渡していねえよ。それでも魔法に関しては異様に効率よく使うらしくてな……それで回復するとは思わなかったが」
「まあこれで僕が変に怒られずに済んだ……かな」
そういうことでもある。
ただ根本的にむやみな殺生をしないというのは生きる上で重要だ。
まったく魔王が再度倒されたと世界に広まってからみんな油断をしすぎなのではないか。
まあ彼らにこの言葉は伝わらないしそもそも言う気もそんなにない。
彼らが冒険者として成長していくことで少しずつ学ぶことだ。
物事には順番がある。
「……おかしいな、ニーダレスは言葉がわかるはずじゃあ」
ただロイドだけがそうつぶやいていた。
その後しばらくは変な絡まれ方はせずに予定通りにひと晩をあかす野営所までたどり着いた。
冒険者だけではなく旅をして移動を重ねる者たちが自然に何度もみんなで使い回すようになった場所がある。
ここはそのうちのひとつだ。
私は石の中でみんなはそこらへんで雑魚寝。
そこそこ手慣れたもので炎をちゃんと焚いて携帯食をとり皆で眠っている。
なおぱぱっと用意したのは吟遊詩人のヒゲさんだけれど。
見張りで起きているのはソードマンの男装麗人さん。
剣の手入れで暇を潰している。
何時間かしたら交代だ。
私はこの身だからぶっちゃけロイドが眠っていれば問題ない。
私もこっそり一緒に見張りだ。
まあ魔物の危険は無いとは思うけれどね。
「はあ……今日は失敗しちゃったなあ……」
昼間のゴブリン騒動だろうか。
うっかり斬りすぎてしまったのはもうしかたないが……
失敗だと自覚するのは良いことだ。
「確かに……改めて考えてみると……こわいよね……自分の身勝手であんなふうに殺せてしまうのは……僕は……どうしたら良いのかな……」
誰に聞かせるでもない言葉が響く。
そのままだと虚しい独り言だけれど私が聞いている。
たとえそれが意識されないものだとしても。
「こなれた剣士は、剣の声を聞くって言うけれど、剣も、剣士の声を聞いてくれているのかな……だったらこの剣はきっと僕の声も……なんだか、もっと話したくなってきた、僕の話を聞いて、ステラ……」
あの剣の名前……あったのか……
その後私はソードマンの話を愛剣ステラになりきったつもりで聞いて過ごした……
おはようございます私です。
一行は改めて地点を出発。
朝起きたソードマンさんの顔はどことなく晴れやかだった。
聞いた話はなんてことのない自信がない自分に対する想いが中心で……
なぜゴブリンに対して必要がないほどの斬撃を出してしまったかというのも自分の自信なさだった。
行けるとわかったのに……さらに踏み込んでしまったと。
なぜならうまいこと相手を戦闘不能にしなければ周りに迷惑がかかってしまうから。
自分の見積もりや感覚が信じられずに凄まじく重い一閃を放ってしまったということ。
そのせいで続く連撃が軽すぎたのだとか。
思った以上の力で斬ったことによる疲労と斬れてしまったことによる恐怖。
結果的にリーダー待ちになってしまったと。
私から見たらソードマンさんはこのチームではかなりの高火力アタッカーなのでもっと自信はあっていいと思う。
ただ最終的には吟遊詩人さんの詩があれば十分強く立ち回れるからもっと周りを信頼しようという点に落ち着いていた。
剣や私は何もしていないのにちゃんと自力でたどり着けたようだ。
もちろん寝ていた者たちは何も知らないが。
移動は結構安全に出来てついには目的の遺跡へとたどり着く。
そこは見ただけで分かる巨大な建造物たちが立ち並んでいた。
それなのにすでに古く風化しておりニンゲンの気配はまったくしない。
「よし……行くか」
ロイドの声がどこか遠くまで響きそうな。
そんな錯覚を覚えそうだ。
大門のそばにある小さな出入り口の扉に今手をかけて……進む。




