二百二十七生目 晩食
キレイなウサットの死体は高く売れるらしい。
即死魔法で決めてよかった。
「まあ、それよりも今確認しにいってもらっている、虐殺の捕獲のほうが遥かに価値は上がりますけれどね」
「虐殺……本当に恐ろしかった……まだ思い出すだけで震えてきやがる……こいつが一緒でなければ逃げることすら不可能だったな。アイツ、この後どうなるんで?」
「本当に生存していると確認されれば、拘束後に研究機関へと回されるでしょう。虐殺は無駄に殺しすぎました、どこに放っても環境が荒れるうえ、生きた2つ名個体は珍しいので今後2つ名魔物対策のために研究されなければなりません」
「なるほどねえ……まあオレも、死体の山の1部になるところだったから、同情はしねえな」
私も野生のときに虐殺みたいな2つ名を持つかもしれなかった瞬間はあった。
マンドラはほんの少し違った私の行く先……
けれどもはや遠い道。
そんな思いにふけっていたら話がまとまったらしくロイドがギルド員に別れを告げ外へとあるき出した。
「虐殺討伐関係で入金は後日かあ……まあ今日の晩飯程度ならなんとかなるかな」
そういえばお金ぜんぜんないと言っていたね……大丈夫なんだろうか。
多分今日の入金を待っていたんだろうし。
それはともかくベルトにぶら下げられて石の中で揺れながら。
帰路についた。
「はぁー! 身体バキバキだ……!」
ロイドが防具を脱いで部屋着でベッドの上に倒れた。
私は石の中で机上に置かれた。
彼の家に帰ってきたらしい。
家とは言っても小部屋ひとつ。
明らかに安い宿だった。
でも……自分も昔こういうところを部屋でとっていたから懐かしい。
「メシを食堂で買う金はない……だから、今日はコレだな」
誰に言うでもなくロイドはつぶやきつつベッドから立ち上がる。
食事と言って袋から取り出したのは焼き固めたクロパン。
さらにはパンを溶かすためのスープを手早く作る。
スープの中身は食べられる野草をまぜ塩と何らかの出汁を混ぜて作られたもの。
「はぁ……これほんと腹がたされるだけなんだよな。ニーダレスはどうなんだ? メシはいらないのか?」
私はゆっくりと石を揺らす。
否定の意を伝えた。
結局身体が分神の光塊なので食べることはない。
「そうか、いらないか。傷も確か石の中では治るんだよな。召喚獣ってのはすごいな……」
傷に関しては確かにそうらしい。
少しずつだけれど生命力がちゃんと治った。
今は元気十分。
私とロイドが綱で繋がっているせいかロイドの体調がリアルタイムで理解できる。
ロイドは少なくともあの食事はまったくおいしいとは思っていない。
力強くパンをちぎり香辛料もないスープに浸して食べている。
香辛料があまり安くない国なのかな。
私はそこまで気にしないしむしろアレでも美味しく食べられそうだけれど。
なんとも面倒そうにもそもそと食べる。
そうして半分くらい行ったあたりで唐突に立ち上がり。
私の石を手にとって。
「出てこい」
なぜか私が石から出された。
現実に出てきて身体が形成される。
「とりあえず、今日はありがとうな。有り金はたいただけあったよ。じゃなきゃオレは今頃死んでいた」
「バフッ」
ロイドはふたたび席に座り食事を再開する。
私と疑似的に話すつもりで食事のまずさをごまかすつもりか……
気持ちはわかる。
「これ、食うか……?」
冷たい目で返す。
あれは彼が食べないと当然栄養にならない。
ロイドは怯むようにして再度パンをスープに浸した。
「お前の3つ目、割とそうされると恐いんだよな……普段は全く気にならないくらいなのに。単なる魔獣の類に見えるけれど、ニーダレスは結構賢いらしいしな。はー……マズ」
何を言っても味は変わらないので塩分で食べきってもらいたい。
なにせ明日から本格的な準備がいるらしいのだから。
「お前に本契約してもらうように、オレも頑張るところ見せるからよ、見ててくれよ」
「ワフッ」
……あれ?
そういえば仮契約だの本契約だの言っていたよね。
本契約ってどうなれば本契約なの……?
何も知らないのになんだがロイドは私が知っているかのように振る舞われてて困る。
何も知らないんだけどなあ……
それから私達は少しずつ活動範囲を広げた。
前日の報酬はロイドにとっては目を輝かせるほどの額だったらしく。
街のあちこちで備品を買い込んだ。
特に大事な道具である行動力回復薬を購入した。
ロイドは有料指導も新たに受けて召喚術の技術も学んで行き……
私と共に撃退依頼などをこなした。
一回の召喚で結構使い回されるなあ。




