二百二十四生目 対炎
ハンターがそこにはいた。
たくさんの屍の中に佇む姿。
場の絶対強者ゆえの余裕。
長い尾の先に鱗のような矢先がつき肘と膝から燃える炎を揺らめかせる。
その目は獣特有の眼光をこれでもかと輝かせていた。
筋肉が茶色い毛皮の上から見える。
"観察"だ!
[虐殺のマンドラLv.25 異常化攻撃:怯み 危険行動:咆哮]
[虐殺のマンドラ 2つ名虐殺:遊び尽くして殺しながらもその行動が何にも結びついていないさまを人間が観測し名付けた
非常に残虐性が高く近づく相手には容赦しない。そのかわり火山の洞穴などのあまり巣の周りからは出たがらない。身体の炎を使って寄生虫をはらう]
なんとなく恐ろしく強そうだ。
あれ……でも能力面と危険行動などが一致しないような。
そして森の中なのに火山の魔物?
「なっ……嘘だろ……2つ名モンスターかもしやっ。そうだ、[虐殺]か……! たまに街近くに出没するからって張り出されていたが、まさか今日に限って!」
自然に私が石から出される。
目の前にマンドラの顔。
虐殺という2つ名にふさわしい加虐性たっぷりの顔をしていた。
なにせ私が増えてもビビるどころか舌なめずりをしたのだから。
「ははっ……今日はツイているな……日が沈むまでのブッ殺し数過去最多更新確定だ……」
うわあ。
言葉がわかってもこれは話通じませんわ。
あと多分私の今では"オーロラオブデス"はレジストされるし今回の狩猟対象ではないから即死は困る。
相手は余裕の笑み。
対するロイドは……
「よし。全力で逃げるぞ!」
「ワッ?」
目線を合わせながら全力でバックして逃走している。
ってええ?
戦うのでは?
しかたないので私も後に続く。
さすがに私のほうが速いためすぐに横へ並べた。
なにせニンゲンって2足だし。
「アレはヤバいんだ! お互い狙いを絞らせずに走って逃げ切る! 街近くまで行けば助けを呼べる!」
「ワワッ」
大丈夫かなそれ。
モンスタートレイン行為……つまり魔物を引き連れたまま別の誰かになすりつけたりして被害を拡大させる行為にならない?
まあ緊急逃走だから仕方がないか。
「逃げるなっ!」
当然ハンター気質のマンドラは追いかけてくる。
速いッ!
というか私達の足が遅い。
「きたぁっ!」
「これで脚を焼いてやる」
当たり前のように距離を詰められてしまい何らかの行動をしようとしている。
狙うのは……若干足が遅いロイドか。
ちょっと試したいことがあるしあえて私がロイドの後ろへ回り込む。
「なっ、ニーダレス!」
「馬鹿め、燃えろ!」
マンドラが思いっきり地面を叩きつけると真正面の地面の上を炎が走る。
これを……私は反転してマンドラのほうを向き受けた。
足元から来た炎が私に当たると上昇し全身を業火が覆う!
「ニーダレスーッ!!」
「はは、手応えがあった。これは1撃で倒しはしない……ここからじっくりなぶって……」
……すごく悪い顔をしたりロイドはなぜか足を止めてしまっていたりと突っ込みどころは多いのだが。
すごく申し訳ないのだけれど。
歩いて炎の圏内から出ていく。暑いし。
「……な!?」
「ニーダレスっ、まさか怪我もしていないのか!?」
「バフッ」
うんまあなんとなく予想はしていた。
明らかな炎使いなのに炎関連の危険さがないとか。
この炎を目の前にしたときにまったく恐くなかったとか。
"四無効"で完全に抑え込める範囲のものでしかなかったようだ。
いやまあ……そりゃあそうだよね。
逆にここらへんの魔物で狩りしている相手がそんな高度な能力持っていたら大事故というか……
隠していない気配からもデタラメに強そうな感覚はない。
今戦うために向き合っているが殺気は強いものの独特の強者感覚が薄い。
多分気合入れていけばいける。
「戦うのかニーダレス」
「ナメんなっ、こっちは全力を出していないだけだ、お前程度などこれでーっ!」
「まずい、身を守れ!」
マンドラが吠えると四肢の炎が強まり身を包む。
さらには横に広く炎をまとって高く跳んだ。
ロイドが慌ててこちらに行動力を回す。
行動力がこれだけあればまず光魔法"シールド"を唱えられる。
同時魔法発動数は精霊がいないため1つのみ。
考えながら動かないと。
マンドラが身を丸め回転する。
噴き出された炎が回転によってうずまきながら拡散し私に向かって降りてくる。
おそらく文字通りの最高火力の技……なのだが私は無効化。
それより直接打撃が危険だからここは少し身体をそらしつつ前方に向かって針をたくさん突き出す。
防衛用針だ。
「うあっ!?」
ロイドが思わずのけぞるほどの火力はあるらしい。
動き自体はちゃんと見られる。
後は私がこの重い身体で捌ききれるかだ。




