百二十七生目 大鷹
「なんで、ちょっと疲れる程度で済むのよ……」
協力者たちを一通りワープ運び終わった事をユウレンに報告したら呆れられた。
まあ代表が100ってだけで森の魔物たちそのものはその3倍いたなと気づいた時は危なかった。
ただそれぞれが縄張り内の環境維持に全て移動されると困るということで100ほど数が減って助かった。
行動力はガッツリと減ったが減った先から"無尽蔵の活力"で治るので致命的な問題は発生しなかった。
数をこなすうちに慣れてきたしね。
今ならもっと多く同時に運べるかもしれない。
ユウレンがいれば骸骨たちが単純作業を行うため、この間に周辺情報を集められる。
今は大きい意味は無いかもしれないが少しでも情報はあったほうが良い。
「……というわけで、頼んだ!」
「分かった!」
「頼まれたー」
今度はインカとハックに頼んだ。
まあ今度はまかりまちがっても掌握なんてしないだろうからね。
元気に駆けてゆくふたりを見送り私たち遠征組は休んだ。
朝を迎え昼を越えて夜になれば再び活動の時間。
それまでは多少のゴタゴタはあったが問題は少なかった。
こちらの数がとんでもなかったから下手に襲撃はされなかったようだ。
池で水分確保も出来たし月も明るい。
夜に地面を照らさられながら私たちは目的地へと移動を開始した。
ここからはアヅキと私とドラーグだけだ。
平原の魔物たちは池までの案内は出来るが迷宮まではわからなかった。
まあ山の中だから当然と言えばそうなんだけれどね。
アヅキは飛べるし速度も良い。
ドラーグも飛べるのだから……というとそうはいかない。
瞬間的な速度は良いのだけれど身体の重さのせいですぐに疲れてしまうらしい。
なので1番遅いドラーグに足並を揃えるわけで駆けるわけだけれど……
「ひぃ、ひぃ、はぁ、はぁ!」
「はいおつかれー」
私が"ヒーリング"やら"クールダウン"やら使うことで癒やして熱を逃がす。
そうすればまた何とか走れるのでそれでごまかしつつと言った感じだ。
「まったく、鍛えていたのではないのか?」
「げ、限度があるよう」
「まぁまぁ、それは仕方ないよね」
ある程度足が遅くとも身体が大きいからその分歩幅ある。
だからわりかし走ってくれると早い。
実力差があってもマラソンが何とか成り立つのはこの影響だ。
スタミナ差はすぐにはどうしようもないから今は私の補助頼り。
聖魔法の補助も入れておく。
[ビアースタミナ 疲労を軽減し疲労への耐久力を上げる]
そうして走り続けれたり休んだり魔物と戦って食事をする。
日を迎えればまた夜まで待ちそうして走る。
それを繰り返せば山の麓までたどり着く。
ここからさらに骨が折れそうだ。
山は近くで見たら険しかった。
崖が多く獣道のような荒れたニンゲンの道があるのみ。
木よりも崖にも生えるような草花が中心でまさに冒険者しか通らないのだろう。
まともに攻略すれば大変だ。
私は崖に張り付けるわけではないからね。
だけれどもこちらにはアヅキやドラーグがいるのだ。
私を抱えたドラーグはアヅキと共に背の翼をはためかせた。
ブォン!
翼が空気を掴むと徐々にドラーグの身体が浮く。
ある程度上昇したら一気に加速した。
ぐんぐんと空が近づいて行く。
アヅキも背の黒翼をはためかせながらグングンと飛んでいった。
激しく上昇する遊園地の乗り物のようだ……!
うん、確かこんな感じだった気がするるる……!
Gが! Gがかかりまくる!
ふっ、と緩められたと思ったら数度羽ばたいて着陸した。
ど、どうやら着いたらしい。
内臓がぺしゃんこになるかと思った。
「こ、ここが山頂?」
「そのようですローズ様」
「ここから改めて地図を確認しましょう」
見晴らしの良い山の1番高い所。
つまり山頂。
ここからなら地図と照らし合わせれば迷宮への入り口はわかりやすいはずだ。
地図を3匹で覗き込みあーでもないこうでもないと言い合う。
周囲は魔法のレーダーで探っているがこちらに警戒する魔物の気配はない。
今のうちに調査を済ましてしまおう。
地図と現実風景を照らし合わせてそれらしい崖を見つける。
さあ早速調査に……
行かせてくれないらしい。
「上空から何か来る!?」
「む、どの方角ですか!?」
「ええと、あ、アイツ!」
「ぎゃああ〜〜!!」
思い切り攻撃意思を丸出しに空から飛んできたものはドラーグが悲鳴を上げても仕方なかった。
なんというか、もうデカイ。
背の高さがドラーグと同じほどの鳥って。
ドラーグは竜の子とは言え直立時は2mは軽く越している。
それと高さが同じだなんてそんなにポンポンいてたまるか。
当然それが広げた翼はアヅキのものと比較にならないほどでかい。
翼開長4m超えは確実。
そいつが足の爪で襲い掛かってきた!
ギリギリ跳んで回避すると再び上空へ上がる。
戦いの態勢を整えないと……
[ワベアシLv.20 異常化攻撃:出血]
[ワベアシ 常に高い所で張り込み近くに来た獲物を捉える。翼を折りたたんで飛び込む速度は獲物を逃さない]
三本の角……いや、冠羽をなびかせながらそのタカはまたこちらへ向かってきた。
今度はその翼を折りたたんで。
「みんな急いで散って!」
遥か高い所から音速の壁を越えて一瞬で距離を詰めてくる。
狙いは私か!
"止眼"!
私のすぐ近くまで迫ったタカ。
体感時間を極限まで伸ばしているがこの距離では爪を避けても風圧だのなんだので大打撃は避けられない。
"空蝉の術"はダメだ。
どこからどこまでパワーがあるかわからない。
巨大かつ音速の質量による空気の詐欺判定。
"空蝉の術"はスレスレでの使用が前提だからダメだ。
ならば……使いたくないがやるしかない。
"止眼"を解除と共に1番早い空魔法を唱える!
そして辺りは激しい土煙と風に包まれた。
「主!?」
「……っだいじょうぶ!」
飛びたくなかったが私は空を飛んでいた。
そしてすぐに自由落下である。
[インターラプトル 発動を待機させ自身に危害が加えられた瞬間に発動する。攻撃を避けたどこか近くへ転移する。少しの間連続使用不可能]
つまりはすぐに発動するけれど、どこにワープするか選ばせてくれない。
しかも一回使ったら私の場合1分使えない。
わりと賭けみたいな魔法だ!
その結果がフライアウェイ!
これこのまま着地したほうがダメージ大きくないかな!?
タカも外したのを察して目でどこへ行ったか探している。
ええいこうなりゃヤケよ!
空魔法"ミニワープ"!
地面へ叩きつけられる直前に私の身体はふっと光になり消える。
タカがその光に注目したときに私はタカの頭の上へ!
知っているぞ、前世と同じならば鳥の弱点は――頭上!
硬いながらふわりとした着地心地と共に何が起こったかわからず叫び声を上げるタカ。
立場逆転、飛び離れようとするタカに対して有効打を!
"ロックボーン"!!
土魔法で骨状の石を作り出す。
だがさらに力を込める!
グングンと巨大化した岩を私の下へ放つ!
つまりはタカへ!
いきなりの重量にタカはバランスを崩す。
だがまだ!
土魔法"ヘビィズン"!
[ヘビィズン 対象を重くする]
これは"ヘビィ"の相手にかけるバージョン!
ただし敵にかけようとしても効きにくい事は多い。
だが石相手になら目一杯かけられる!
「いけぇ!!」
石にかかった過剰な重さがタカの肩へとかかりそのまま地面へとその身体を叩き落とした!