二百二十二生目 即死
ロイド……召喚主がモタモタしていたら敵のウサットが突撃してきた。
うわ……身体能力が前よりすごく落ちているな。
どう身体を動かそうかというのも目で相手の動きを追うのもつらい。
どちらにせよしのがねば。
「ほらほら、遅すぎるぜ、狩ってやる!」
「ガウッ」
敵の言葉は私にだけはスキルのおかげでわかる。
ウサット……やるきマンマンだ。
狩られないようにしないと。
最も接近してきてから後ろ足を1発。
こちらの動きが弱くなったとは言え弱くなったことを先程からのことから想定して動けば問題ないこと。
動きが単調でタメが長く読みやすかった。
頭に叩き込まれそうなケリを伏せて避ける。
ウサットも避けられた時のことを考えていたらしい。
全身に雷撃が走るのが見えた。
「あーああ、とりあえず避けるんだ!」
ロイド側にも動きがあった。
回避用に行動力が回される感覚。
わずかしか無いが……集中して私。
「喰らえ、百裂蹴り!」
おそらくライトニングスタンプ。
凄まじい勢いで雷撃を帯びた蹴りが連続で繰り出される!
私は……背後に跳んだ。
目の前に迫った雷撃を纏った蹴りをギリギリ跳んで避ける。
いやカスりはしたか。
私に電気の感覚が残っている。
ただあれは連撃がキモだ。
1撃はたいしたことがない。
そのままラッシュのように連続で蹴り込んでいて私が距離を取れたことをちゃんと察していない。
本來なら何度も反撃チャンスがあったが今の私には無理だ。
そんなに能力高くない。
「りゃりゃりゃりゃ! っていない!」
「大丈夫か?」
「ガウッ」
心配してくれるのはありがたいんだけれど反撃の手を考えてほしい!
多少ならいなせるから指示と行動力がないと……
「くっ、今日は奮発だ! お前が何を出来るのか見せてくれ、なけなしのエネルギーで!」
「ワワッ」
おお。私を縛る綱からいくらかのエネルギーが流れ込んでくる。
さらには私の心うちに指示が響いてくる。
相手を倒せと。
大丈夫……私の効率化系スキルは自動回復以外ほとんど生きている。
さらには魔法の効率化理論はスキル依存じゃないから使える。
さらに魔法も威力はともかく大半は使える。
これなら普段はしないあの魔法が出来る!
「行けるか? 俺も援護するっ!」
ロイドが安全装置を解除し銃を構える。
ウサットはそれを見て危険を察知したのか私の方ではなく横に跳んだ。
跳んだ後の地面を発射された銃弾が跳ねる。
「くっ」
ガチャリとレバーを引き装填し直している。
ボルトアクションというやつだっけか。
今の動きでより距離が取れた。
うまいこと相手の間合いからどんどん遠ざかろう。
「おいおい、エネルギーわたしたんだから戦ってくれよ!」
「おら、逃げるのか!」
ロイドも私に向かって走ってきてその後ろをウサットが追いかけてきている。
当然逃げるつもりはない。
ただ魔法というのは準備に時間をかけるものなのだ。
よし。
身体を反転させ相手を待ち構える。
ロイドが私を通り過ぎウサットが目の前に来た瞬間。
聖魔法!
[オーロラオブデス 極光が降り注ぎ対象を即死させる]
「ウオオーン!」
「「……っ?」」
その時に発せられた光。
それを受けるまでもなくふたりは感じていたのか。
その身を固めた。
ただ静かだった。
空から極光が……オーロラが降り注ぐ。
もう気づいたときにはウサットは光の中に囲まれていた。
やがてどんどんとオーロラが強まっていく。
そうしてもう恐れではなく拘束されてしまった事実にウサットの声にならない声だけが漏れて。
オーロラが消えると同時に彼の身体は糸が切れたように倒れた。
「え……? 今、何が……?」
「ワフッ」
「お前が……やったのか?」
ふと我に返ったロイドが驚いたようにあたりを見回す。
今の魔法が使えそうな存在など周囲にはいない。
それでいてやっとウサットの死体を念入りに調べた。
そうしてわかったのだろう。
傷などなくただ即死したのだと。
来世でも良いウサギになれるといいね……今回はめぐり合わせが悪かった。
「お前まじか……マジカ……!」
あー……何が出来るのかと言われて一応最高能力技を使ったのだけれど引かれてしまったのかな。
俯いている。
まあ……今回はご縁がなかったと。
「すごいじゃないか!!」
「フワッ?」
あれ。なんだか予想外の反応が来たぞ。
まさかの高評価。
屈まれガッと肩を掴まれる。
「頼むぞー、その調子で5匹! これだけ状態が良いウサギ肉が手に入ってなおかつ畑を守れる、最高の力だな! はは!」
なんだか喜ばれていて何より。




