二百二十一生目 討伐
お年寄りがロイドに手渡したものは何かの小石に見える。
半透明ながらきれいな丸で小石サイズでも価値がありそうだ。
「よし、出番までもどっていてくれ」
「ン?」
ロイドがその石を渡しに向けると……
一瞬で私がその中に吸い込まれた!?
一体どうなって……!
気づいたときには遅かった。
私の肉体は完全に石の中へと溶け込まれてしまった。
すごい違和感……まるで私が石になってしまったかなような!
肉体の感覚がなくかわりに石からは光景や音が聞こえる。
ロイドは私を閉じ込めた石を腰のベルトにくっつけた。
服が邪魔になるかと思ったがどうやら今の私はそういう目から物事を見ているわけではないらしい。
全方向のデータをとってそれを視覚や聴覚に置き換えて受信しているだけのようだ。
コレはこの石の効果だろうか……
「ふう……まだまだエネルギーが少ないから、無駄な消費はできないな……」
「ちゃんと最近流行りのエネルギー回復させる飲料も買っていったほうが良いのではないか? 効果は小さくても駆け出しなら問題ないものが、安価で出回っておる」
「そりゃあ、その安価な品物を買える余裕があれば、ですよ……今月の家賃を支払っちゃって今手元に金がないんです。というわけで、近場で狩りをして少しでも稼いできます! どう動けるかの試しもしてきたいですし」
「なるほど、では、無理はしないようにな」
ロイドが駆け出すとご老人が軽く手を振って見送りだす。
ロイドはそれに気づいて腕を振りかえしつつ駆けた。
もしかしてもう冒険者ギルドで依頼は受けたってことなのかな。
街の中はやはり今まで見てきた国のものとは様子が違った。
この街はカラフルだ。
あと地震がほぼない地域なのか建物の耐震性を無視した設計が多い。
そのせいか面白い光景が見られる。
めちゃくちゃに建物が高い。
なんというか建物に建物を積んでその上にも積むみたいな建築だ。
朱の大地も変わっていると思ったがここも凄いな……
当然私はしまわれていて見つかることもなくそのまま外へ。
外壁の外は結界の外。最悪ここでも魔物がわくだろう。
どうやら浅い森林の中のようだ。
手入れがされていて道なりになっている。
ここなら迷う可能性はほとんどないだろう。
そもそもすぐ近くに街があるからね。
まだ迷宮ですらないのに迷われても困る。
足取りは迷いなく進んでいくようだ。
閉じ込められた時は焦ったものの何もしなくても運んでくれて楽な気分になってきたな……
「えーっと、ウサット、ウサットと……そろそろいるはずなんだが」
ロイドが若干息を切らしながら走り続ける。
そうかあ初心者ってこのぐらいの能力しかないんだっけ……
そうこうしているうちにそれらしい魔物を見かける。
"観察"!
[ウサット Lv.10 比較:不明 異常化攻撃:なし 危険行動:ライトニングスタンプ]
[ウサット 自らの身体に電気を持ち、それを利用して目にも留まらぬ足技が披露される]
おーいたいた。
耳が雷みたいに折れ曲がっている小兎だ。
比較値が不明なのは私の強さが不明なせい。
召喚を受けた身だとレベルを持たず能力や行動力を伴う戦闘行動はロイドに従うしか無い。
つまりロイドと比較しないと強さの値が出せないのだ。
でも"観察"にその機能はない。
ぶっつけ本番か……
ってちょっとまって。
なんで通り過ぎようと……ああっ逆方向見ているっ。
向こうも別に積極的じゃないせいでこちらを見てすらいない。
どうにか知らせるには……
この石頑張れば動かせるか?
よいしょっよいしょっ。
「なっなんだ!? 封魂石が揺れてる」
よし気づいてくれた。
立ち止まり石を手にとって。
やっとロイドは気づく。
ロイドは慌てて背中から武器を取り出した。
長い銃身に無骨な弾丸。
ライフル銃だ。
「ってああ違う、出てこいっ」
ロイドは慌てて手に持っていた私の石を掲げる。
光が溢れてゆき……
私の身体が石から出る。
すぐに私の形はちゃんと成り立ち身構えられた。
ウサットはこちらの動きを警戒しているようだ。
さて少なくともウサットはやる気だが……
「ようし、やってやれっ、今回は討伐依頼だ」
「……」
「……」
「…………」
「……あれ?」
いやっアレ? ではない。
こちらに行動力送り込んで指示してくれなくちゃ何もできないでしょうが。
振り返り睨んだらやっと気づいたらしく慌てる。
「うわあそうだった、スマンっ、今度こそ……」
そうこう話している間にウサット側からしかけてきた。
自慢の脚に電気をタメて仕掛けてくる!




