二百十八生目 魔法
アカネが恐かった。
兄に対する態度がめちゃくちゃひどい。
命懸けで助けられたとは思えない。
「あ、ローズ! こうして私とちゃんと会うっていうのは、初めてかな。戦いの時にある記憶、どうも今の私には他人事のように見えて……ああ、もちろんちゃんと私だとわかっているよ!」
「……ま、根はこういつやつだ」
「ダカシッ! こほん。改めて、私がアカネ、友達になろう!」
アカネが怒りの声をあげ兄へ威嚇してから私には笑顔で手を差し伸べてくる。
なんというか忙しい子だ……
勢いに押されたのもありトゲなしイバラを伸ばし手を掴む。
一瞬困惑した様子を見せたもののちゃんと掴み返してくれた。
「うん、なろう……友達に。今度こそ」
「あなたにも散々迷惑をかけた。私の知る範囲でも知らない範囲でも、おそらく償いきれないほどの罪を私は背負っていかなくちゃならない。それは分かっている。けれど、同時に私だって色々されたわけだし、助け出された以上は楽しく生きていきたいの」
「もちろん、アカネはほとんど犠牲者なんだから、重荷を背負いすぎないで」
「唯一の妹を捨ててどこか行こうとした兄とは違うので、そこんところはご安心を!」
思いっきりダカシにあてつけだ。
ダカシはギクリと身体を揺らしているがそれ以上の反応はない。
ダカシ自身も結構反省しているのだろう。
それにしてもアカネの性格ってこうだったのか……
それとも様々な経験を得てこうなったのか。
詳しくはわからないけれどそういえばダカシとアカネが分かれる前もダカシの静止も振り切って危険であるだろう襲撃された村まで戻ったんだっけか。
その時からなんとなく根は見えているか。
「それでダカシ、何かこの後のプランは?」
「え? いや何もプランとかは……」
「はあっ!? 何も考えずに私連れ出してローズまでここにいてもらっているの!? まさかとは思ったけれど、ほんとだらしないんだから……!」
ダカシに対してガリガリ怒っているアカネ。
正直うわあってなっている。
ダカシはどこか申し訳無さそうに目線をそらし続けていた。
「まあまあ、時間的にもちょうど良いし、ランチを探しに行こうか?」
「良いね! そういうのやってみたかったんだ!」
「あれ、さっきまでは家にいたいって……」
「ひとつのことしか考えられない能無しじゃないんだからね、ダカシッ!」
「アハハ……」
ニンゲンなのにたくさんの牙を生やしダカシに吠えるアカネ……
それに対してのダカシはなんだか幸せそうに曖昧にわらうのみだ。
案外いいコンビなのかもしれない。
適当にほっつき歩く。
そうしてアカネが見つけたのは前に私がフォウたちと合流したカフェ。
メインも置いているためここにすることとした。
私はふたりに合わせて背が高い机を使うため2足型になり……
今日食べるのはトーストピザ。
食べやすいように切り分けられた分厚いトーストの上にトマトベースソースそれにスライスした複数の野菜。
良く燻製されたベーコンを乗せチーズで閉じてある。
なお使用しているものに本来私が食べると毒になる物は使用されていない。
耐性的に平気なんだけれどクセで抜いている。
アノニマルースではこういう個々種族への食物対応を管理し行えている。
私が結構肉体に適切なものじゃないと苦手だったり拒絶気味になるだけで……
魔物によってはなんでもかんでも食べてしまう。
ニンゲン用の塩分調整された料理をおいしいおいしいと食べて後で塩分過多を起こし水を必死にとっていたインカを思い出す……
「おいしそー!」
目を輝かせているアカネの前にはオムライスが運ばれる。
実は裏で私の知識にあるレシピを渡して作ってもらったりしている。
なので世界でもみないカフェになっている可能性は割とある……
「それでは、最後に一手間を」
「い、一体……?」
さらにアカネはワクワクしながら変化を待つ。
店員さんは目の前でテーブルナイフを使い……
さっと一筆。
切れたところから中身が溢れて割れる。
トロトロな中身がすぐにケチャップライスを覆った。
バターの芳醇な香りがふんわり広がる。
「わああぁーー!」
「な、なんだ、魔法……?」
魔法ではないのです。
ダカシが驚いているとダカシ分も運ばれてきた。
彩りトマトのパスタだ。
アルデンテのパスタに良く加熱されたトマトソースそしてひき肉あえ。
生のトマトを大きく切り添えてあり香草が散らされておしゃれ。
さらにサラダボウルもセットで頼んでいた。
「ダカシ、ほんと野菜好きだよねえ」
「別に誰が何を好きでもいいじゃないか」
実際盛り付けられたサラダはとれたて新鮮なにおいで私からしてもおいしそうだ。
ダカシはあえて調味料をかけずにそのまま食べる。
新鮮さの証明が音でされた。




