二百十七生目 炎症
おそらく勇者という存在は誰か神の保証……おそらくは金竜あたりのものによる力と。
人々の思いによって結実した世界の仕組みだ。
しかし組み込まれた瞬間それは他の存在と深く絡み合い……
結果的に誰も想像だにしないバグが発生した。
世界の仕組み上ありえない動き……魔王が弱まって生き残り勇者が生き残るというものが起こり。
仕組みが何もかも狂ってしまった。
「本来は魔王に打ち勝つための、魔王と釣り合うほどの力を手に入れる能力……それがイカれたんだな」
「魔王が弱まったままずっと生きている。だから勇者も弱まるというね……」
本來はありえない成長の逆行。
それが相手に合わせて行われてしまった。
能力処理としては単に無効化してしまえばよかったのだがそうもいかなかったらしい。
さらに悪いこととしてグレンくんの中では勇者の力が渦巻いたまま。
こんなに強大な力なのに制御する器がもろくなり……
炎症としてその身を焦がしている。
比喩表現なので熱が上がったり赤くなる程度なのだが見てみるとかなりつらそうだ。
しかもグレンくんは勇者として多忙。
あちらこちらから声がかかっていて仕事がつっかえている。
こんなことになってしまったのは最近でお医者さんの薬で僅かな時間をごまかしつつまたココに戻る日々。
根幹治療は再成長しかなくて……
「も、もしかしてこれ、かなり手の打ちようがないんじゃあ……」
「話を聞く限りそうなるな」
「「はぁ……」」
ふたりが深いため息をつく。
確かにわかる。
これほどまでにどうしようもない状況。
しかし私は1つだけ目星をつけている。
今すぐどうにかできるわけではないんだけれど。
しかも確実性はない。
「……1つだけ。可能性があるとしたら、金竜が鍵だと思う」
「「金竜?」」
ふたりとも意外な名前が出たことでさっぱり話は繋がらないらしい。
どうしても推測に推測を重ねる話になるからね。
「前勇者に勇者の剣をつくるため力を貸していて、神の視点から深く知るものだから、勇者の仕組みにも趣は深いはず 」
「ああ、そういう伝説は聞いたことがある」
「伝説の5大竜か……本物に会えると良いんだけれど……」
実はもう蒼竜にはばっちり会っているんだけれどねふたりとも!
まあ蒼竜に関しては頼りにならないからなあ。
聞いたら少し考え込むそぶりを見せ何かを思い出したのかと思ったら「うん、なにもわからんね!」と言われたから頼りにはならない。
「まあ、本物の勇者にならその姿を表してくれるんじゃないか?」
「それもそうかな……少しだけ、希望が見えてきたよ……ハァ、ハァ……」
おっとグレンが疲れてきている。
長居して体力を使わせてしまったかな。
こういう時魔法で治せたらとも思うんだが残念ながら過剰エネルギーと釣り合わない肉体が問題なので治癒系統は悪化すれども回復はせず。
「それじゃあ、そろそろお暇するよ。また来るね」
「早く治せ……とも言えないな。まあ、無理はするなよ」
「うん、ふたりともありがとう……」
ダカシは最近余裕が出てきたのか周囲にも厳しさ以外の目を向ける。
良い傾向だろう。
妹のアカネが復活したのも大きな要因だと思う。
この後会いにいくらしい。
私も復活してからは精神衛生上の理由で会っておらずやっと外出許諾もおりたらしくちゃんと会える。
ずっと敵として会っていたからなあ。
グレンくんの元からアノニマルースへ戻ってきた。
そしてダカシはアカネに会いに行き……
私は外で待つ。
彼らの家は集合住宅の1つだ。
そもそもダカシは稼いだ金額のほとんどを復讐のために用いていて手持ちがほとんどなく……
またアノニマルースにも腰掛けのつもりだったためいちばん安い場所。
近々ふたりで暮らしても支障のない場所へ移るそうだ。
そんなことを考えているうちにふたりが表に出てきた……
「もうダカシ! 私がなんで外に出なきゃいけないの!?」
「だから言っているだろう、ローズが待ってて……」
「家に来てもらってよ! 疲れてるんだから!!」
……え?
このハキハキとした声に混じって何か鞭みたいな音も聞こえるし……
あの兄のことを想い続けていたアカネはどこへ?
建物から出てきて音の正体が分かった。
アカネが自身の腕を一部変化させて木のようにし鞭のようにしならせて壁にぶつけている。
……アカネは実験個体で身体の一部分を変化させられる。
色々制約はあるようだがまさか兄へのイライラをぶつけるために使うとは。
というよりアカネあんなキャラだったのか……
アカネが私に気づき腕を元のニンゲン用に戻す。
……まだ若干指の数がおかしかったり皮膚が割れていたりするけれど突っ込まないでおこう。