二百十六生目 退行
こんにちは私です。
今私は皇国のとある街に居ます。
なのでホリハリー風2足で服を纏いニンゲンを装っている。
一緒にダカシも来ている。
ダカシは黒ライオン風の姿をしたニンゲン……なのだが。
悪魔と融合していて隠れた魔人という存在。
街の結界に弾かれないかヒヤヒヤしたが大丈夫だった。
私はもちろん大丈夫。
そして今いる場所は……
「お見舞いにきたよー、グレンくん」
「邪魔する」
「ううーん……ありがとう、ふたりとも……」
寝ているのは……そう。
あの勇者グレンくんだった。
ご両親は困惑をしているものの優しく迎えてくれたしグレンくんへの扱いも見る限りまっとう。
なんでそんなことを心配する必要がえるかというと……
顔を赤くする彼の身体はナゼかまた子供の身長に戻っていた。
「本当に小さくなったんだな……あの戦いの時は俺と変わらないくらいだったじゃないか」
「うん……おれもどうしてこうなったのか、ちゃんとはよくわかっていなくて……」
勇者はその特徴で魔王との戦いに備えるためニンゲン族なのに急激に成長をする。
レベルが上がるというだけではなく……
肉体年齢がかさ増す。
まだ実年齢幼稚園児くらいだったのに高校生付近まで成長していた。
まさしく活動期の真っ只中……
だったのだがなぜか彼の姿は小学生くらいまで戻っていた。
「一応、そのことについて魔……フォウから推測は聞いてきたよ。まあそれと、これがお見舞いの品ね」
「あ、ありがとう……」
風邪のように見えるが風邪と違ってくしゃみや咳はしない。
ただ熱はあるようで苦しんでいる。
倦怠感も強そうだ。
とりあえずお菓子を見せてから近くに置く。
どうせ今は自力で食べる元気はないだろうからね。
「あーあ、勇者の剣も、あーあ」
ダカシが手に持ったのは勇者の剣……もといナイフ。
勇者の剣は勇者以外が持つと単なる切れないナイフになる。
もちろん果物ナイフよりずっと大きいので刃物としてはちゃんと危険だが。
ただ……錆びている。
いや正確にはサビではないのだがサビに見えるものだ。
固まっていると言えば良いのか。
刃の部分も持ち手の部分もまるで100年は使っていないかのように古びている。
ツタが巻き刃が変色し明らかに使えない。
ただその様は役目を果たしたかのような満足げな雰囲気も感じれた。
「うう……手入れもなかなかできない……」
「お医者さんはなんて?」
「……エネルギー性炎症? とかなんとか言っていたかな。本来持つ力よりも身体が弱まっちゃって、制御できない時に起こるとか……しかも症状がひどくて、なかなか抑えられないって……」
あまりに発生原因に心当たりがある病気だ。
本来勇者として持つ力……なぜか小さく戻ってしまった身体……それまでに鍛え上げていたパワー。
その影響が思いっきり来ているんだろうね。
「かなりきつそうなのは、見ているだけでもなんとなくわかる。安静にしてろ」
「うん……」
「さて、もうひとつの症状……力と成長の喪失についてなんだけれど」
私はフォウから渡された絵をグレンくんに渡す。
グレンくんは顔をしかめた。
まあそういう反応になるよね。
「独特……いや、古めかしい絵……?」
「どれどれ? うわっ、古代遺産にありそうな絵! これ魔王が?」
「そう、描いたらしいの……むしろ凄いよね」
広げた最初の絵は……ヘタってわけではない。
むしろうまい。
ただなんだか壁画に出てきそうな絵なのだ。
レベルが低くても絵なら手癖でなんとかなるはずと描いて渡してくれた力作。
かなり時間はかかっていたがその分見るだけの価値はあると思う。
絵は光の男と闇の男が対立して互いに剣を振りかざしているところから始まっている。
「フォウの話は勇者と魔王についてだった。勇者伝説ではあまり語られないけれど、勇者と魔王の力は基本的にイーブンだ。勇者は仲間の力を、魔王は配下の力を使い……そして……相うちとなる。そういう存在なのだとか」
次のところでは双方が剣によって倒れ伏している。
勇者の力は強大な魔王の力に間に合わせるために強くなるものだ。
逆に言えばこの仕組みは……
「しかし今回の勇者は生き残り魔王は最弱化したと」
これが次の紙に描かれたもの。
双方は剣を収める。
これもしかしてグレンくんとフォウ?
似ていなさすぎてむしろ特徴だけよく掴んでいる気がする。
「うんうん」
「勇者は魔王を倒すために同等の力を得るようになれるんだけれど……ここで想定されていないことが起こった。やったのは昔のニンゲンたちなんだけれど、魔王が恐ろしいほどに弱体化していて同時に勇者も生き残っている。不可逆的なもののはずが現実は逆行したために世界の仕組みがおかしくなってしまった」
これが問題だ。




