二百十五生目 図書
こんばんは私です。
私は本に向く。
その本はタイトルのない1冊。
トゲなしイバラで慎重につかみ……
開く。
「グワッ……!」
なさけないヤラレ声を出しつつ閉じる。
はあ……はあ……気絶しなかったぞ……
やはり本を閉じると急速に情報が失われていく。
文字を読んでいるはずなのに大量のデータが脳内にぶち込まれる感覚……
わずかずつだが慣れだしている。
「はい、水です」
「ありがとう」
そしてこんな凶悪な本をひとりで読むには危ないため付き合ってもらっている相手がいる。
ローズクオーツだ。
まだまだ宿舎はできないため私の身の回りにいることが多い。
そしてここはアノニマルース図書館。
まだ真新しい机が古めかしい本たちと馴染んでいない。
これから少しずつ変わっていくのだろう。
今ココには私とクオーツしかいない。
図書館長はとっくに自室へ行っている。
夜にしか本を読みに来ない魔物は珍しくないのでこうやって開きっぱなしだ。
それはともかくとして今私が読んでいるのは例の職業レベルに関しての記述があると思われる本。
しかしまあ……よめないね!
差し出された水を読書エリア外で飲む。
今さっきのだけでのどが渇いたのに気づく。
どれほどまでに体力を消耗させられているのやら。
クオーツは褒められて喜び出したいのをぐっとこらえ嬉しそうな笑みだけで済ませた。
いっかいいっかい吹っ飛ぶのはなしにしたらしい。
「ようし、今度はわたくしが読んでみますね!」
「無理しないでね……多分危険だから」
「任せてください、ゴーレムですから多分こういうのは得意ですよ!」
ちなみに前世で読書はほとんどしていなかったらしい。
クオーツの自信はどこからわくのか……
そもそも本当にクオーツには自由な遊びやゆっくりした時間を過ごしてほしい。
こっちの倫理観とあっちの倫理観が違うのは分かってはいるんだけれどね……!
さらには義務教育程度のことは私から知識で得ちゃっているからね……!
学校行けとも言えない……!
「ローズ様との共有感覚で知識として大変そうなのは得ているんですが、やはり自分で味わったわけではないとどうしても実感が薄いんですよね」
そんなことを明るく話しつつクオーツは本に手をかける。
そうして……
ゆっくりと表紙を開いて中へと進み……
おっ……読み進めている?
最初のページに目を通したままだ。
さすがゴーレム処理能力が違う!
……あれ?
何かおかしくないか?
「どう、クオーツ……?」
「…………」
「クオーツ?」
「……カッカッカッカッカッカッカッ……カッカッカッカッカッカッカッカッ」
うわあ!?
違う……これは!
フリーズしている……固まっちゃっているよ!
無理やり本から引き剥がし土魔法"ゴーレム"。
この魔法をゴーレムに対して使うと治療できる。
少ししたらフリーズから目を覚ましてくれた。
「ハッ……ここは!」
「大丈夫、今そこで固まっちゃったから起こしただけだよ」
「うう、まさかわたくしのパーフェクトボディですら処理落ちするだなんて……!」
クオーツは頭を抑えフラフラと飛び上がる。
復活はしたけれどしばらくは安静にさせていたほうが良さそうだ。
ちょうど良いのでゆっくりしていてもらおう。
クオーツが着いた座椅子近くにはたくさんの本が積まれている。
私が何度も開いたり閉じたりしている間に集めていたようだ。
暇だろうしね。
「その本たちは? 世界の観光名所とか?」
「これらですか? ローズ様に関与している記述が見られる本です」
「……え゛っ」
驚いて変な声を出してしまった。
待て待て私に関する本多くないか?
つまりあれか……事件に関する本とかで……
[帝国を救った英傑 蒼き毛並みの姫]
[勇者の影にいた者たち 冒険者ローズオーラ]
[キニナルあれこれ 〜勇者とともにいた人たちは誰?〜]
[えほん ぼうけんしゃろーずのだいぼうけん]
思ったよりも私主軸の本多いねえ!?
くっ……書類仕事を秘書係たちに任せることが多くなったからいつの間にかスケジュール調整もされるようになってしたし……
なんどか取り調べなのかインタビューなのかわからないものも受けたが。
思ったよりも大変なことになっていた。
特に帝国はガンガン書冊を発行する姿勢がある。
勇者が激しく目立っていたからこんなにあるとは思っていなかった……!
「文字が読めるって良いですねー、この身になってから初めて思いましたよ。さっきの本の文字は勘弁ですけれどね」
「うう、そんなに私関連があるとは……ものすごく恥ずかしくなってきた」
「大丈夫ですよローズ様、多少おもしろおかしく脚色されている部分もありますが、大半はローズ様の功績をただしく評価していますよ」
それが恥ずかしいんだよね……!
唐突に強く持ち上げられている実感がわいて……!