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二百十一生目 落着

 流れでグルーミングを私の作ったゴーレム……ローズクオーツにやってもらうこととなった。

 クオーツは私から私の分身でも作るのかというくらい積極的に毛を集めだしている。

 まだ少ないけれど……身体の半分しかやっていないからね。


 私は熱に押され結局横になった。

 普段はなかなか他者には見せない横寝モードである。

 上体を縦にしつつ下半身を横に崩すのよりずっと無防備だ。


 自然に4つ足と腹がさらけ出される。

 しかしそのことに対してクオーツは特に感想はなくグルーミング器をまるで必殺の暗器のように構える。

 そして……その櫛が私の胸元を捕らえた。


「さあ、いきますよ!」

「う、うん」


 クオーツが片手を私の身体に添えて……

 ゆっくりと櫛で胸を撫で下ろす。

 ほんわかとしているのにどこか真剣な空気が流れていた。


 その後は腹部の方へ流れる。

 ここの毛は元々ふわふわなのでより繊細なコントロールが求められる。

 ……他者に腹を撫でられるのはやはり落ち着かないね!


 すごくソワソワしてしまう。


「あの、わたくしの中にあるローズ様の情報で気になる情報があるのですが」

「んっ、あ、うん?」


 思わず変な声が出てしまった。

 危ない危ない。

 そう言えばゴーレムはある程度私の情報を引き継いでいるんだった。


 だから今話している言語も元の言語を無視して皇国語だし私はホエハリ語出そのままで通じている。


「前世の地球というところ、気になりますね」

「ぶっ!?」


 不意うちボディブローをもらってしまった。

 それはそうだ。

 その情報も伝わっているに決まっている。


 今更ながら前世の話は内心穏やかじゃあなくなる。

 いい加減なれろという話ではあるが。

 自分すら見えない領域にあるなにかに触れられるようで。

 ニンゲンだったら全身冷や汗かいている。


「だ、大丈夫ですか?」

「う、うん。びっくりしちゃっただけ……そうか……前世の話かぁ……正直私も覚えていないんだよね。前世があること、知識を引き出せること、殺されたこと……あとはたまに記憶ぽいのがかすめるのみで、わからないんだ」


 こんな寝姿でする話ではない気もするがそこは言っても始まらない。

 話を聞く間にもクオーツの手は止まらなかった。


「それは……ちょっと不思議ですよね。記憶がないのになんだか知識が異様に豊富な気がして」

「そうなの……かな? ちょっと自信がないのだけれど」

「なんというか、普通の引き出し方ではありませんよ? 多岐にわたってしかも時間をかけたらすごい詳細まで引き出せていますから」


 そういえばそこまで私の知識引き出しについて深く考えたことはなかった。

 そういうしくみのものだとして使っていたなあ……

 なにせ比較対象がいないし。


 正確には勇者グレンくんがいるものの実はバタバタしていてまだ前世話に花を開かせていない。

 互いに口約束だけしてそのまま……

 よくあることだよね。


「うーん、前世のことがすごく記憶に薄いのが関与しているのかなあ」

「まあわたくしも、比較対象がわたくしとローズ様しかいないんですけれどね」

「ふうん……うん、うん?」


 今の言葉おかしくなかったか?

 思わず首を持ち上げクオーツを見上げる。

 これは一体……


 クオーツは真剣にこちらの身体を櫛で撫でている。

 比較対象が自分とは……

 それってまさか。


「わたくしも転生者、ですよっ」

「ええッー!?」

「ヒャッ!?」


 思わず跳ね上がるよう立ち上がってしまった。

 結果的にクオーツの持っていたグルーミング器を跳ね飛ばしてしまい……

 慌ててイバラを伸ばしてキャッチする。


「あ、ご、ごめん!」

「いえいえ、仕上げまでやってしまいますよ」


 グルーミング器をクオーツにかえしてまた姿勢戻して……と。

 じゃなくて!

 いまとんでもない話が飛び出てきたんだけれどもっ。


「っ! てて転生者!? どういう、えっ!?」

「そのままの意味ですよー。多分わたくしも同じ地球から来たと思うんです」

「ぜ、前世の記憶が!? 地球の何世紀から……!」


 毛を取り繕われているのに話す内容のテンションが違いすぎてびっくりし続けている。

 一体……一体これはなんなんだ……!

 クオーツはクスクスとわらう。


「少し落ち着いてくださいよ」

「むしろなんでクオーツはそんな落ち着いて……?」

「まあ、生まれた瞬間からローズ様の知識を持っていたから前世からの記憶で整合性がとれたというのと……わたくし、幸せなんです」

「というと?」


 ゴーレム特有の最初から大量に知識を持たされても平気な部分と記憶の地続き感覚でパニックにはならなかったらしいが……

 あと幸せとは何だったのだろう。


「わたくし、前世ではせかいでいちばんしあわせに暮らしていたんです、そして今も」


 クオーツの笑みはどこかさみしげだった。

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