二百十生目 唐突
グルーミング用器具を使ってグルーミング中。
テスターなのでちゃんと感想を書かないとね。
速乾性オイルは今の所ベタつきもなくちょうどよく毛皮を保護していてくれる。
ほんのり背中から繊細な花のかおりがする……
この香料度合いってかなりつくるときに揉めたらしい。
なにせ種族がバラバラでかつ嗅覚の発達具合がまるで違う。
最終的にニンゲンにも嗅いでもらったら『無臭?』って言われたこともあるとか。
最終的にオイルに段階をつけ買う間に確かめられるしくみを組んだのだとか。
私はやはりこの段階で良かったらしくかおりが自然に現れ自然に消える。
独特の獣臭さは生き物である以上現れるのでこのぐらいで中和するはず。
自分のにおいだなんて自分の身体にあるうちはそうそうわからないけれど。
何度か櫛を通せばごっそりと毛が取れる。
禿げてはいない。
そもそも全体毛量からしたら微々たるものらしいし。
私にはトップコートとアンダーコートと呼ばれる2重層の毛がある。
これが主に抜けているのはアンダーコートの古くなったもの。
主に外から見えている大きい毛がトップコートでまとまったときにフワフワで細いのがアンダーコートだそうだ。
ある程度毛がとれてまとまったらボタンを押す。
するとボタンと連動して櫛の底側が押し出され毛がまとめて取れた。
単純な機能ながらあるとないとでは大違い。
この機能も問題なく動いている……と。
後は連続して使い細かくデータを取りつつ全身をきれいにするだけ……
「ローズ様ー! 遊びに来ました!」
「わあっ!?」
びっくりしたっ。
唐突に部屋を開けて入ってきた誰か。
いつも外を警戒しているわけではないからビックリした……
入ってきたのは足のない浮遊ゴーレム。
宝石から生み出されたその姿は……
「あれ、何かお忙しかったですか!?」
「ああいや、そういわけじゃないけど……クオーツ」
ローズクオーツだった。
少しの間やっていることを説明して。
「なるほどっ、ぜひお手伝いさせてください!」
「あ、いいの?」
「ええ! まだローズ様とじっくり話せてなかったと思って来たので、ちょうど良かったです。わたくしのことはしゃべる道具くらいに思って身を任せてくださいね!」
気合がむしろ申し訳ない……
「これですねっ」
とクオーツがグルーミング器を持ち上げる。
あの腕で? と1瞬思ったが手にはニンゲンのような親指といくつかの握り指が形成されていた。
ほんとあの指先は器用に変化させられるんだなあ……
「ささ、寝転がってください」
「こ、こう?」
自分が作ったゴーレムとはいえこんな無防備な姿を晒すのはなんだか緊張する……
いや普段から横になったり箱座りしたりはしているのだが……
完全に身を任せるようにシなくてはならないのは別種の緊張がある。
そっと櫛が背中に当てられて……
「それっ」
「わっ!?」
早すぎる!
なんかすごい勢いで背中をガタガタシながら駆け抜けていった!
能力差もあるし攻撃ではないので痛みはないがすごいビックリしたのと他者にやられた初のアタックで声が出てしまった。
「わあああっ、すいません、すいません!」
「だ、大丈夫大丈夫、痛くはないから。落ち着いて、毛並みに沿って毛皮にちゃんと通しつつ出来る範囲でこまめにやるといいよ」
「もう一回チャンスくださいっ」
「もちろん」
別に怒ってはいないからね。
最初の何回は櫛を通すのに苦労して身体の凹凸で跳ね返されて。
けれどそのたびに少しずつ櫛の入れ方が正確になって。
やがてスムーズに入るようになった。
これは……まさしくマッサージみたいだ……
「ああ……良いね……すごくいいよ」
「うふふふ、ありがとうございます」
「そういえば、ノーツは……?」
クオーツの笑みはどことなく上品さを感じた。
私が作り出したゴーレムだがクオーツもノーツも完全に別個の存在でなんとなく不思議だ。
「ノーツなら、今日も強化訓練を受けていますよ。少しでも自身の活躍をしたいらしく、特に選択幅を増やしたいんだとか」
「なるほど……すごく真面目なんだね」
「ええ、私の姉で、ローズ様の被造物ですからっ」
私が作ったからちょっと不思議なんだけれどね。
背中側や頭部それに横のグルーミングを取り終える。
よし……これでだいたい終わりかな。
「ほら、ちゃんと隅々までやりますよ。寝転がってくださいね」
「えっ、そんな……わざわざ悪いよ」
「何をいっているんですか、全身やってこその毛づくろいですよ、私はローズ様の道具になりに来たのです、安心してくださいっ」
駄目だ……きらめく目の奥に何か炎の幻覚が見える。
おかしなスイッチが入ってしまったらしい。
グルーミングをしたがるスイッチとかどんな流れで身につけたんだ。