二百九生目 油櫛
蒼竜がひとしきり大笑いしていたのが落ち着いてから。
やっと話は終わりを迎えた。
特に他にようがあることはないらしい。
「いやあ、ほんと、良かった今日は! 最高の話が聞けたよ、まさか朱竜が、ま、ママに、ハハハ……」
「一応真面目な話なんだけれどなあ……」
「それで、本当に特別なことはしなくて良いんですか?」
蒼竜はこちらの話を一通り聞いた上で何もしないことを選んだ。
蒼竜のことだから何か手を増やすかもと思っていたのだが。
「ああ、もちろん鍛えたり何だりは自由にしてもらって構わないけれど、僕としては君たちから最高な話を聞けた、これだけで十分なのさっ」
「そうなんですか……と、とりあえずママに負けないように鍛えたいですね!」
ドラーグは私がカフェまで持ってきていたおもりのひとつを持とうとする。
いわゆる鍛えるポーズをしようとしたのだろうが。
しかし羽をパタパタとさせうなるのみで持ち上がることはなかった。
「こ……これめちゃくちゃ重くないですか……! これを複数、全身に……!?」
「いやあ、ドラーグは1%の姿だから……フルなら全部持てるよ」
「そうだった、アレも重いのに運んでほんと大変だったよ」
[自分は、ひとつも持てなかった]
フォウはズーンと落ち込むポーズをとっているが全ての力を取られているので致し方ないの思う。
蒼竜は自分本体が山脈なみにデカイんだから大丈夫だろう……としか思えない。
まあそれでも……
「まあ、蒼竜今回は助かったよ、ありがとね」
「まったく、なんだか暑くなってきてアイスが食べたくなったなあ」
「あ! 僕カステラ・オン・アイス食べてみたいです!」
「はいはい、おごるからね」
[これでいいのだろうか。良いとしか言えないか]
フォウが懸念する世界のことはまだたくさんあるだろうが……
まずはみんなでアイスを食べようか。
こんにちは私です。
今は家でたくさんの小物を並べている。
特に目立つのはコレ……
持ち手があり先端に鋭利ではない突起状のものが連続して並ぶ物体。
簡単に言えば……
毛づくろい器である。
魔物たちはグルーミングと呼ばれる毛づくろいを舌で行う。
ゆえに衛生面や毛の取り込み問題が付きまとっていた。
しかしニンゲンたちは毛皮のある派生トランスをした場合に備え毛づくろい用具が発達しているのだ。
これはその機材をベースに私が前世のペット関連知識や今世魔物知識を活かして開発依頼していたモノ。
既にアノニマルースでは咥えて使うタイプ含めて一般販売を多くされているが……
これはその新型改良版。
しかしこれはデモ版でいわゆる試作品なのでまだ売られていないし私はテスターとして報告をしなくてはならない。
早速使っていこう。
「よし!」
ちょっとテンションが上がっている。
化粧品ではないもののそれにじゅんずるようなものだ。
こういうのはニコニコしてしまう。
機材は私の毛皮のタイプに合わせた短毛型。
しかしこの毛づくろい器の機能はただ毛づくろいをするだけではない。
最大の特徴はオイルセットだ。
本体は植物をメインに作られているのだがくぼみに細い管を入れられる。
細い管には目の前にあるオイルたちを入れられるのだ。
基本的に速乾タイプの毛皮保護のためにあるオイル。
様々なかおりで獣特有のにおいもカットしてくれる。
ちなみに私はテストできないがウロコタイプのもあるそうだ。
新香料のイエローフリージア……に似たこの世界の花からとったものを使おう。
私など朱の大地冒険隊が見つけてこちらに持ち込み商品化にも成功している。
まだ希少なのでこぼさないように……っと。
中身をちゃんと管に入れたらくぼみにセット。
この新型は行動力を流し込み初めてオイルが浸透しだす。
前のは大変だった……
行動力制御がなく出力が安定せずにビタビタになるまで出るんだもの。
コントロールしてちゃんと少しずつ浸透するように調整。
前々は櫛の部分に油を浸してからやるものだった。
あれはあれで悪くないが面倒さと効率面どちらもよくない。
さて……新型を試してみますか。
ひとまずイバラで背中を。
"鷹目"で背中からの視点はばっちり。
ちなみに本来は2名でやるのが多い。
届きにくい箇所があるからね。
ただ腹部や後脚部など触れてほしくないまたは触れにくい場所のためにひとりでやりたいという要望は絶えない。
もっと多鏡面や補助腕などの開発が求められるがなかなか難しい……
順に開発部はやっていくしかないだろう。
オイルを浸透させた櫛で背中にさしこみ……
そのままさっとひとなで。
おお……結構新型の櫛は通りが良いなあ。
自分でやっているので想像内ではあるものの櫛の背中あたりは快感さがあった。
けど少し浅いかな?
そこらへんも書いておくかな。