二百八生目 気絶
矛盾存在の技術書。
本来はこの世界にはなくそれなのに今私達の前に現れている。
どこか不安定な存在。
消える前に手をかけねば。
「思ったよりも薄いね。こんな大層な仕掛けがあるのだから、もっと高価そうな品かと思ったんだけれど」
「これ、見た目よりもずっと不思議なものだよ……本来はこの世界に存在していないのに、今だけここにある本みたい……」
[観測が必要な物質か。まさか休眠層に入った神が仕掛けた物か?]
「見てみればわかりますよ!」
それもそうだということでさっそく。
本は軽々と開く。
そこに書かれていた最初の文字を見ようとして……
……私は気を失った。
「うわあっ!?」
飛び起きた。
ここは病院か。
どうやら運ばれたらしい。
睡眠無効を持っている私を気絶させるとは……
まあかなり物理的な理由だったので致し方ない部分もある。
自動再生してすぐに起きれたのだろう。
壁に備え付けられたスイッチをイバラで押す。
単純なしくみだ。
押すと看護している者たちが集まる場所……まあようはナースステーションで音がなる。
ほんの少しの時間でナースのひとりがすっ飛んできた。
私の無事を確かめてからすぐに医師をつれてきて……
ドラーグたちも来てくれた。
「ええ、もう大丈夫です。今日は様子を見て自宅療養をすると良いでしょう」
「ああ、突然ローズ様が倒れるのでほんとびっくりしましたよ……」
「ごめん、迷惑かけたね。ありがとうございました、また何かありましたら呼びます」
「はい、お大事に」
医者が帰っていった。
なんとかひと安心だ。
「帰ろうと思ったけれどすぐに目を覚ましたようでなによりだよ」
[先程の本は箱に戻してここにある。中身を見るとどうなるかがわからなかったから。しかし一体何があったのだろうか]
フォウは頭にはてなを浮かべたような目をしている。
あれは……凄まじかった。
「本の形をしているし文字も書かれているけれど、アレはそんなものじゃなかったよ。言うなればディープランニング装置……私の脳内に大量の情報を叩き込んできた……しかもその殆どは、まるで夢みたいに今はあやふやに……」
あの時の事自体は今でもはっきり思い出せる。
脳内へ瞬時に情報が叩き込まれた。
映像として。文体として。口伝として。体感として。においとして。味として。
ありえない量のデータを覚悟なしで見てしまい脳内に無理やり詰められたデータたちは……
意識を外へとはじき出してしまった。
しかしそれらのデータは定着せず私という意識が戻ったときにはがらんどうだった。
けれど分かったこともある。
「な、なんだか凄まじそうですね……うっかりのぞき見なくてよかったです……いやローズ様が倒れたのは良くないのですけれど」
「うん。あれを見るときには覚悟がいるよ。あとあんまりは覚えていないけれど……あれは多分職の力量に関することだよ。私が記憶にある範囲ではね」
[なんだって]
フォウが食いついてべットに手をかける。
そうあれこそ……
私達が探していたものなのかもしれない。
さすが知の神だ……あとでお礼しておこう。
「ただ、あれ。私のものにするにはかなり大変だと思うから、時間をかけさせて」
[分かった。こっちで触れたほうが良いだろうか]
「正直……かなり安全性はないと思う。あれ、こっちの都合とか関係なく叩き込むから。死ぬことはないとは思うけれど……それだけは伝えておく」
[それはやめておこうか。あと祖骨の保存方法は書記しておいた]
フォウは首を横に振った。
正直助かる。
アレは私が解かないといけない。
そんな気がする。
「わかった……あ、そうそう私からは最後にもうひとつ。ドラーグ、いいよね?」
「ああなるほど……もちろんですとも」
ドラーグはうなずいてくれた。
断られるとは思っていなかったけれど良かった。
蒼竜とフォウが不思議そうにドラーグを見つめる。
「ん? 一体何なんだい?」
「実は彼の親は今までわかっていなかったのですが、此度判明しまして」
[親か。それはめでたいな]
「けれど、それが何か関係あるのかい? 僕たちに」
それがまあ……あるんだよね。
遠からず。
彼の黒い肉体からはわからない繋がりが。
「彼は朱竜の仔だった」
「はっ?」[え]
一瞬だけ時が止まった。
「はい、僕は秘密にしているつもりはなかったのですが、ママが朱竜だったというのを最近知りました」
「……ぷっ、アッハハハハハッ! アハハハッ!!」
突然蒼竜が腹を抱えて笑い出す。
フォウは私とドラーグ双方の顔を見合わせた。
[思いもよらなかった]
「ママ……ママ……! 朱竜ママ!! おかし……! アハハハハハーッ!!」
蒼竜は涙を浮かべ息も絶え絶えだ。