二百七生目 正体
フォウが呪具祖骨を使おうとして魔力不足だった。
私はイバラを添えて魔力変換し流し込む。
よく私のエネルギーは莫大だ……と思われがちだ。
しかし現実的に言えばそれは違う。
私はあらゆるエネルギー総量そのものは実はふつう。
そのため強さをごまかしやすい。
ではなぜ大量の魔法を使ったりできるかといえば……
この"疲れ知らずの魔毒獣"によるものだ。
私は効率と回復がずば抜けて高い。
本来は魔力変換や使用時……さらには伝達なんかもしようとしたら行動力は恐ろしく効率問題で減る。
さらに行動力はふつう休まなければ回復せず戦闘緊張時や空腹時などは一切治らない。
私はそれらの制約がなくほとんどのとき回復するし効率が非常に良い。
さらに魔法なんかも独自の研究やこれまで世界に残された技術で自身の身体への効率化を図っている。
もし単純に大容量を求められると厳しいが効率に効率を重ねているため他のみんなよりもエネルギーをたくさん渡せるわけだ。
今フォウがこの祖骨にわたすエネルギーを管理していて私にも感覚が伝わってくるがコレなら問題なさそう。
行動力を魔力に変換し流し込む。
すぐに魔力が満たされ回路が作り出されていく。
ふむふむ……触っていてよかったかもしれない。
見ただけではなく感覚的に構成が理解できる。
「ああ、魔力装置に似ているんだけれど方向性を自分で制御しないといけないんだね」
[思考や構成は似通っているがその有機的性質はまるで違う。また物によっても性質は違うから確かめ方がある。原始的だが今のやり方が確実だ]
「あー……なるほどぅ」
見えない穴に水を流し込むかのように。
しかもその水には薄く私達の感覚もある。
どこにどう流し込めば正常に満たされるかがわかりきっていないから効率的ではないが探りやすい。
うんうん……呪具もわりかし使い方があるんだなあ。
これならもっと他の呪具なんかも探していいかとしれないね。
まったく見当はつかないけれど……
魔力はただしく満たされ魔力が活性化する。
骨にヒビのような光が走る。
濃い紫で闇の気配を感じる。
そうして放たれた力は祖骨の先から闇のオーラ。
黒い雲が一瞬で本を包み込んだ。
そうして少したち晴れると……
「「これは!?」」
「……箱……?」
私達が本だと思って開こうとしていたもの。
それはひとつの箱だった。
どうりで開かないはずだ……
箱には一体化した鍵がつけられていてまだあきそうにない。
「おおっ、箱ですね! でも鍵が……この対応する鍵だなんてありますか?」
[残念ながらこの呪具には単なる鍵を開ける力はない]
「力を入れて壊すと多分このタイプは中のものも壊れるよね。どうするか……一旦持ち帰って鍵屋を探して――」
「ああ、まってまって。私なら多分解ける!」
私に視線が集まる。
よしやるか……
子どもたちは見てはいけない魔法。
「人の造りし絡繰、機材の妙、道具の神、閉じし心を開き、開かれた力を閉じ、今神秘に浸れ、ロッキング」
私のイバラ先に3本の光でできた棒が生まれる。
なるほどこのタイプか……
鍵の種類を判定して必要なピッキングツールを生み出すのが主な能力の魔法。
なお針金をつっこんでいじれば外れるぐらいの簡素な鍵だと唱えただけで開く。
まず2本の棒を鍵穴に入れて……小娘がこうなって……
「な……なにか……みちゃいけないものを見ている気がします……!」
「キミ、ピッキングも出来るの? 凄いけれど、色々とこう、大丈夫かい?」
「悪用しないから!」
蒼竜がわざとらしく囃し立てる。
技術は悪くないのでどうこう言われても知らない。
遺跡系統の場所では鍵解除を必須でむしろおかしくはない。
とげなしイバラを器用に操り悪い子には見せられぬ手口で鍵の解除目星をつける。
そのあと3本目の棒を抜き差しして……と。
よしいけた。
カチャリと回せば鍵が開く。
箱を慎重に開いて……と。
「「おおー」」
「よし、できた」
「うわあ、すごい、本当に開きました!」
[中から出てきた物が本当の本だな]
みんなから感嘆の声があがる。
フォウの言うとおり中から出てきたものは本。
今度は認識がちゃんと出来る。
薄い赤みがかった本でタイトルは読めない。
古代の文字だろう。
"観察"して覚えなきゃ。
[矛盾存在の技術書 題名は技術書。この本は観測されるまで存在しなかった。この世界の多くの影響を受けておらず能力での中身理解が不可能]
え……
だ……大丈夫なのかこれ。
とりあえず文字の理解は"言葉を超える教師"でできた。
読み進めてみようか……




