二百六生目 普通
蒼竜が自分の駒を始末した。
「……駒って私のような?」
「そうだなあ、なんと言えばいいか……アイツはまあ純粋に裏切りもので魔王との戦いで煮え湯を飲まされたのもあるし、純正の神でなおかつ邪神と化していた。ずっと探していたうちのひとりだから、むしろ世のため生き物のため良いことをしたくらいに思ってもらいたいねっ」
[まあ、良いだろう]
「……うん、今はその言葉を信じるよ」
判断材料がない……
明らかに言葉の上っ面だけだが蒼竜は気にしていない様子。
「ん? んん??」
「ドラーグ、ほんといつもどおりなんだ、別にそこまでこっちも怪訝な空気にするつもりはなかったよ」
[正体不明の攻撃による刃がこちらに向けられないか、確認したのみだ]
「そ、そうですか?」
ドラーグが左右首を振り回し心配そうにしていたので落ち着かせる。
蒼竜はまっさきに座って何も答えずすました顔。
多分コレは『その方が面白そうだから』と考えているな……
蒼竜はそういうやつだ。
ドラーグも着席し私やフォウもそれに続く。
「それじゃあもうこんな本のことはともかくとして、もう2つのことだね」
「もう2つ……ああ」
私が出した普通に見える本と祖骨。
両方とも気になるものだから私も出した。
「こっちの本は知識の神が私と知の線で結ばれているとかなんとか……ただ見たとおり……開かない!」
「あ、僕も! どれどれ……あ、あれ、開かないですね。フォウさんはどうですか?」
試しに力で開こうたしたが当然開かなかった。
ドラーグにも渡したが本に反応なし。
そしてフォウに渡される。
[よく見せてみて。やはりこれは認識阻害がかかっているな]
「ああ、それやっぱり認識汚染個体だよね」
「うん? 一体それは?」
いきなり認識阻害だの汚染だの単語がとびかった。
フォウと蒼竜はわかっているみたいだが。
フォウが蒼竜に机の上に置いてからずらすようにして渡す。
蒼竜は上下をひっくり返し軽く叩いた後私に直接手渡す。
私はトゲなしイバラで受け取って……
「簡単に言えば、この本は見たり触ったりで認識出来る手段を用いたさいに、嘘をついているんだよ。これは普通の本に見えるだろう? どういう色でどういう厚さでどういう雰囲気を持ち、そして能力で調べた結果どうでる?」
「ええっと……普通の赤系統の表紙色で何か神力で封じられていて保護されている……厚さ……厚さは普通? タイトルはないけれどまるで普通な本みたいで……能力を使って調べても名前もわからない」
……うん?
なんなんだこの違和感は。
普通……普通ってなんだ。
哲学ではなく私の話す普通の意味が私に理解できない。
普段は普通という言葉にはそれぞれ置き換えられるただしい単語がありつつもわざわざ用いなくてよくて伝わりやすくするためのものだ。
しかし今私は普通といった中身をまるで想定できない。
私のイバラ内にある本は……『本』なのか?
「あ、あれ……僕も何だか言われたら変な気分に……あの本って、うまくわからないような……」
ドラーグも思わず頭に手を置く。
ちゃんと理解しようとすればするほど違和感が広がってどうしようもなくなる。
それはもうクラクラくるほどに。
「そう、それが認識阻害」
[丁度いい呪具があるから解除しよう。こんなものどこにあったのか]
「え、呪具? ああ祖骨かな。これは迷宮の奥で他の魔物に取り込まれていたんだよ」
呪具かどうかはわからないがこの黒い骨は迷宮内で見つけよくわからんうちに話しかけられよくわからん内に眠られてしまった。
なのでも手を余している。
これも聞こうと思っていたんだ。
[その骨は遥か古来の神が自らの一部を切り出して呪具として用いたうちのひとつだ。まだあったのは驚きだが、希少だから大事に使ったほうが良い]
「じ、自分の一部を……うん、大事にするけれど、具体的に保管方法や使い方ってどうせればいいんだろう」
「さすがに僕にはわからないねえ、きっと僕よりも昔の存在なんだろう」
蒼竜はさすがにお手上げらしい。
というか蒼竜よりも前の存在って……
蒼竜もかなりの古株にあたるはずなのに。
[では解説しようか。まずは使い方から]
フォウはおもむろに祖骨を手に取る。
そうして尖っているほうを本に向けた。
……何も起こらない。
[そうだった。魔力がぜんぜん足りない。手伝いよろしくしたい]
「あ、ああ、うん」
どうやら実行しようとしてガス欠したらしい。
ほとんどエネルギーの流れを感知できなかった……
フォウの力不足のおかげで脅威度がないとされてはいるもののこういうちょっとしたことでも多分今後も苦労するんだろうなあ……