二百三生目 休眠
図式でいくつもの神の分類がされている。
この図は強さとか種族とかではない。
おそらくは……ありようだ。
[とある日、世界は大きな変容を迎える。それは魔王と勇者が互いにうち滅んだ日。その日から始まりだった]
フォウはまるで他人事のように語る。
魔王当人なんだけど。
まあそこは主題ではない。
「始まり……というと」
[事実上神と生物の争いだ。それで生物が勝った。神々の時代は終わりを告げ、生物たちはその手に未来を掴む]
「僕らの時代が始まった、わけですね」
ドラーグは紅茶を楽しみつつそのページを眺めている。
私の方からも同じものが見えるようにちゃんと画面共有がされているのだ。
[神々は選択をした。変革する時代のために、先の神々に倣うものや保守のために奔走するもの、ただそれらを傍観する者たちと]
段階になっている図式の中央層が輝く。
そこには大きな山や島が描かれている。
[まず、この世界の一部と溶け込む者たち。自らの身体を大地にしたり、水底に眠ったりした。ただそういう者は、未だ活動をしている者もいる]
「おや、呼んだかな?」
声に全員振り向けば結界内に入っていた約1名。
笑顔が軽く爽快だからこそどこか信用しきれないものを抱えている……
そのツノと帽子がニンゲンの姿をしていても目立つ存在。
「蒼竜……」
「こ、このひとが本物の蒼竜……!?」
「ふふ、何度か会ったことはあっても、気付きはしなかっただろう? 本物の蒼竜さっ」
[分神かつ身を化けているから、気付きはしないだろうね]
蒼竜が帽子を手で抑え得意げに話している横からフォウが茶々を入れる。
蒼竜がムッとして視線を投げかけるが……
フォウがお返しに睨むとすぐに目を外す。
うーむ上下がはるか昔の戦いで決まってしまっているね……
そして沈黙。
なぜか激しく気まずいのは気のせいではないだろう。
それも蒼竜がいかにもすました顔で座ることで少し緩む。
「えっと、蒼竜さんがもうひと呼んだ相手で……本体を眠らせている神様ということでもある、ということですか?」
「うん、そうだね、あ、これおいしいっ」
当然のようにフォウのモノを横から食べる蒼竜。
フォウは気にしていない。
元々食べることはできないから蒼竜に回すつもりだったのかな。
そう思っていたら一瞬だけフォウが蒼竜に目線を走らせる。
あれは……いわゆる『それはそれとしてなんの断りもなく取る?』という講義の目だろうか。
蒼竜はそれに気づかず冷めたお茶を飲む。
[とりあえず続けよう。蒼竜のようなタイプの他に、朱竜のような活動神もいる。これはこれで現状維持のため、ある意味蒼竜と同じだ]
赤いエリアがハイライトされる。
朱竜らしき者が炎を吐き骸骨が魔法を操っている。
最も活動的とされている神たちか……
「この世界で普通に生存している神たちのことだね、5大竜はどちらにせよそうなる」
[この2層が現存層。そして最上部は魔王側に加担、というよりも魔王のどさくさに紛れて暴れていた者が追放された先、冥界。地獄や天獄とも様々な言い回しが存在する。迷宮から見えるように出来ている2つめの月。神だけではなく眷属や迷惑な魔物も封じ込めたと書かれていた。地獄自体は昔からある追放地のため、現状どのような環境かは不明]
フォウは肩をすくめた。
肩……だよね。
多分肩らしきところ。
丸々としていてよくわからないのは秘密だ。
月の話は少しは聞いたことがあるけれど今はそんなことになっているのか。
暴れん坊の巣窟と聞くとあまり良いイメージがない。
「追放層だね。もし向かうときがあれば、準備は怠らないようにしたほうが良いよ」
「ははは、まさか行くことは……ないよね……」
追放はされないにせよなんだかこういうときは嫌な予感がして蒼竜に対して乾いた笑いしか返せない。
ほんといきたくないな……現状。
[そして最下層。休眠層だ]
隔離された1番下の層がハイライト。
骨や化石になった怪物たちが見える。
ここが話の主題だろうなあ。
「眠っているんですか? それだとさっきの真ん中に近いような」
[少し違う。休眠という表現ではあるが、実体は消滅に近い。神の死は単なる移ろいゆくひとつの状態。なのでさらに踏み込み消える。生命に未来を託すため、自身の意識や存在そして力を大いなる星の流れと一体化させ消し去る]
「ええっ、どうしてそんなことを……!?」
ドラーグが思わず食べかけをこぼす。
慌てて拾いに机の下にもぐった。
確かにやっていることは自殺に近いが……
「ま、長く生きて目的も無くなれば、後はきっかけ……今回は魔王の死による神々の時代終焉で、神を辞めたいってやつも多いのさ。それで記憶や能力も捨てて生まれ変わりを狙うわけだ。生まれ変わった先が神でなければ、また勝ち馬に乗れるからね」
蒼竜が相変わらずフォウのを奪いつつさも当然のように語った。




