二百生目 勝敗
クオーツに感謝したときにクオーツが転がっていた理由が判明した。
なんというか……
もっとちゃんと言ってあげようと思った。
というわけで早速。
「クオーツ、ノーツ、ふたりのおかげで被害が最小限に抑えられたよ。ありがとう!」
「了解。今後も我らをご利用ください」
「ヒャッ、キャーッ! また褒められちゃった、また褒められちゃった!」
ノーツの言い回しは比較的落ち着いているが身体の方は銃を高々と持ち上げて勝どきをあげるかのよう。
クオーツはあいかわらず身を寄せるように腕を自分に巻きつけつつ転がっている。
こういう生き物とは違う部分が見られるのは良いね。
一瞬脳裏にアヅキが浮かぶ。
脳裏に浮かばなかったことにしよう。
世の中常に特例ってあると思うんだ。
この場はイタ吉たちに任せ移動した先には軍隊とカエリラス兵が激しくぶつかっている場所を見つけた。
確保以外の人員や私たちで一気に加勢。
もともと変身体1体に対して10から20以上で囲んで叩いていたので苦戦がうかがえる。
勝つだけならもっと減らしてよかったのだろうがこちらは防衛しつつ次の戦いに備え傷を減らさなくてはならない。
確実性を重視していたようだ。
そして……
「うわなんだ!? でかいゴーレム!?」
「やべぇ、あんなの聞いてねえぞ!」
「追加の敵が多すぎる……そもそも強すぎる!」
「うわあっ、爆発!?」
「無双の力がっ?」
「どうしてこうなったんだ……」
「俺はこんなところでおわっていい人材じゃない!」
「もうイヤっ」
「バカな……カエリラスの残った兵力を募らせて1地区すら落とせない……!?」
やがて戦場に響く声はおさまった。
敵の悲鳴も味方の怒声も。
最終的に文句なしのこちら勝利。
建造物への被害やアノニマルースにいた一般人への被害は極力抑えられた。
現場のほとんどカエリラス兵は拘束され……
現行犯ということで留置所行きになった。
しかし事件はそこで起きる。
「えっ!? 捕まっていた彼が逃げ出した!?」
「はい……こちらです」
ゴーレムたちは現場で修復や残党狩りを手伝っている。
私だけがここに来ていた。
なぜなら今回逃げたのは私に関係のある相手。
その牢屋は他よりも頑強な牢の作りになっていた。
普通の範囲では抜け出せる技術がちょっとわからない。
奮発してつくられたこの世界最高峰らしい技術の牢だ。
物理的そして魔法的にも封じられて発見しにくく出にくい場所。
私が鍵や頑丈さも前世知識も用いてしっかりして脱走対策に壁もいじっている。
はっきりいって私含む複数匹がどう抜け出すかで短時間では全部無理という結論を出すほど。
「ここです」
「……本当だ……影も形もない……カエリラス裏側の金の流れまだ聞けていないのに」
その名もリーダー。
実際にリーダーではなくあくまで幹部級のようだが……
カエリラスたち巨大暗躍組織の裏で金の流れを操る組織の者たち。
アノニマルースにすら平然と儲けるための闇市を開いていたりかなり危険かつ大胆。
今回上の騒動とここでの脱走もつながっていると思っていいだろう。
「鍵は……ついたままだね」
「現在魔力探知などで脱走方法を調べていますが、あまり芳しくなく……」
「うーん……やられたなあ」
騒ぎで囚人たちに変化がある可能性は当然考慮されていた。
増員された警備すらすり抜け牢屋もすり抜けさらに追跡さら抜けた。
そしてあまりに奇妙なのが。
「……彼の抜けた先のにおいも、誰か別の誰かが関与したにおいもしないね……」
「そうなのです。痕跡がなさすぎるというのが今回の異常性です」
上があまりに派手で大雑把だったのに対して。
こちらはあまりに細やかで高度すぎる。
100人規模の囮を捨ててまでリーダーを……
いや……パッとあっただけだが彼らはそんな仲ではなかった気がする。
だとすれば……変身のデータを取りつつ大きな騒ぎを起こしここでの牢屋脱走すらも何かのデータ取り……
さらにそこを元に儲けを出そうとしているかアノニマルースの金品を奪っている可能性がある。
「……とりあえず、他の被害、特に貴重品や高額な品それに魔物たち自身の素材なんかも再調査してみなきゃ。今回の被害は……おもったより大きいのかもしれない」
「わ、わかりました!」
「それと……ここの人員がいないのってやっぱり……」
この牢屋階付近に複数名いたはずだ。
しかし血のにおいもなければ現在待機もしていない。
つまりは……
「彼らは行方不明です……最初から買われていたか、はたまた催眠洗脳かは不明ですが……」
「やっぱり……かなり楽に助け出せただろうね、そこまでやられると」
精神感応系耐性を持ち職務に忠実な者たちしかここには来られない。
それでも空白の1室がしてやられたことを表していた。
私達は試合に勝って勝負に負けたのだ。




