百二十四生目 猛牛
2度目におはよーございます、朝です。
朝でいつもの仲間たちと共に次の準備を始めた。
ユウレン屋敷から持ってきた資料を見つつ荒野の迷宮へ行くための準備だ。
地図と図鑑内容を広げて見る。
「現在は……ここで、この位置からずっと行った所にあるニンゲンの町を挟んで……さらに反対側のここにある。少人数で走っていっても3日はいると思うから……」
「これは遠いですね」
「ふむ、ニンゲンの町にカチコミかけて乗っ取り、中継地点にするのはどうだ?」
「ダメです」
たぬ吉や熊も話し合っている通り中継地点が欲しくなる長さ。
全員で移動する場合走るわけにはいかず1週間以上かかるかもしれない。
人里を襲うのは反撃の可能性の高さからも言って却下。
そこで平原の魔物が1匹声をあげる。
「だったらここに池があるから、多少遠回りですが中継地点としては最適かと」
「案内できる?」
「はい、水飲み場として良く利用されているから問題ないです」
地図上から直線距離からは外れるものの池が存在するようだ。
地図も何もかも正確に書かれている前世的な地図と比べると大雑把だし色分けもあまりされておらず言われなきゃわからなかった。
道案内は問題ないらしい。
「荒野の迷宮の入り口は断崖絶壁の下、ですか……」
「私のように飛べる者ならば問題は無いのですが……」
たぬ吉の言う事にアヅキも反応する。
図鑑には断崖絶壁の下にある洞穴が模写されている。
絵どおりならば飛べたり身軽な必要があった。
「私はパスね。崖から落ちそうだし」
「私はユウレン様に付き従います」
「うーん、私は直接見て確かめたいから行くけれどあといけそうなのは……」
ユウレンとカムラさんはやはりパス。
というわけで。
ちらり、とドラーグを見る。
「……え!? 僕!? む、ムリムリですって!!」
「とは言っても、飛べるんでしょ?」
「まあ、出来なくはないですが……」
「じゃあ適任だよ」
ものすごい嫌そうだが貴重な飛行可能タイプなので必然性がある。
ドラーグとアヅキ頼りだ。
「たくさん鍛えたから大丈夫! そろそろ少しずつ成果が出るから。それにいざというときは守るから、ね?」
「うう……ローズ様にそこまで言われたら、行くしか無いじゃあないですか」
彼は賢いので今のが『タダ飯食わせ続けるのは限度がある』という意味に伝わったらしい。
たぬ吉は裏で雑務をたくさんこなしているがドラーグはひたすら鍛えていたからね。
模擬戦もこなして対立しても体が固まらず考える前に防いだり避けたり出来るようにはなった。
戦いの時に1番厄介なのはその恐ろしさに飲まれて動けなくなることだ。
私も訓練で何とかしたけれど攻撃するということはスキを晒す事でそれすらこわくなる。
恐かろうが痛かろうが身体が勝手に判断するほどに鍛える事で生き延びれる確率が上がるわけだ。
ドラーグは賢いゆえに痛みに怯える。
かなり訓練は真面目にやっているが……実戦はどうなるかまだ見たことがない。
レベルは10まで上がったしここからは実戦じゃないと上がりづらいはずだしね。
というわけで選抜メンバーは私にアヅキそしてドラーグだ。
道案内に平原の魔物3匹。
計6匹でまず中継地点まで駆ける事にした。
もちろんニンゲンに見つかりやすい昼間は避け夜の行動にする。
アヅキはスキルで夜目が効くしドラーグは元々夜でも活動出来る。
ドラーグのムラリューという種族だけなのかどうかはわからないが生活リズムが独特で自由に生きるために昼でも夜でも活動出来るのだとか。
昼行性とか夜行性とかがないとは……
その代わり1日中寝ている時もあるので色々と極端らしい。
ドラーグはわりかし私たちに合わせてくれるので柔軟だ。
そうしてそれぞれがそれぞれの準備をして……
夜。
時代が時代、場所が場所なだけに夜になればすっかり暗くなる。
前世だったらむしろ家の照明が明るく照らす時間だ。
ユウレンたちに留守を頼み私たちは駆けて池の方へ。
当然この数なら魔物たちが寄ってくるわけで。
「魔物たちが敵意を持って接近してくる!」
私のレーダーに引っかかった情報を伝えるとアヅキとドラーグが身構え平原の魔物たちが下がる。
彼等は道案内なのでまともに戦力をぶつける気は無い。
向こうもバレたと踏んで堂々と顔を出してきた。
[ブラゾンLv.15]
[ブラゾン 気性が荒く近付くものに手当り次第突進をする。その角に刺さったものは何度も深く押し込まれ振り回され吹き飛ばされたうえ、身体を踏みつけられる]
見ためは赤い野牛だ。
家畜化されておらず短い双角は牙のように殺意を放つ。
向こうは6、こっちは4か。
「私とアヅキで5匹をなんとかするから1匹はドラーグに何とか任せた!」
「ええ!?」
「大丈夫、これも練習と同じようにやるだけだよ」
不安そうだったがやるしかないと腹を決める様子を見つつ私とアヅキは駆け出した。
同時に野牛も蹄を鳴らして駆け出した。
って身体前方に炎を纏った!?
あれは火魔法の"フレイムガード"か!
焼かれないように大きく避けつつドラーグの様子も見る。
一瞬度肝を抜かれた様子だったが少し息を整え向かってくる1頭を見据える。
明らかに緊張して身体が強張っているが足はそれとは関係なく動き出す。
構えてその巨体に見合わぬほど軽やかにステップを踏んだ。
トン、チャ、とリズムを刻みスレスレながら炎の突進を避ける。
野牛も避けられたと踏んだら急停止し方向転換をした。
しかし魔法の炎は既に消えた。
過呼吸になりそうなほどに荒い息をしているが足運びは正確に距離を詰めた。
ドラーグは背中に翼があるため軽く跳んださいに羽ばたけばそれだけで急加速出来る。
もちろん短い距離だけだがそれでも十分。
野牛が体勢を整える前に突っ込んだ!
両腕で野牛の角を掴む。
そのまま巨体で野牛ごと巻き込んで転がった。
「やああああっ!!」
勢いに負けて野牛は地面から脚を離すハメになった。
その勢いのまま転がってぶん投げる。
まあめちゃくちゃな動きではあるが柔道に近い何かだ。
さすがにむちゃくちゃで柔道と一緒には出来ないかな。
こういう技術を身体がなんとなくしてしまう程度に教えた。
私には身体の形やサイズ的に出来ないがドラーグには両腕も巨体もある。
見事野牛は空を飛んだ!
「たああ!!」
「グモゥ!?」
はぁはぁと既に疲れ切っているような息を出すドラーグ。
体勢を立て直すと同時に高くとんだ野牛が落ちて転がっていく。
力と勢いだけで吹き飛ばされたのはさすがに初めてなのだろう。
まともな受け身も取れず転がって行き木にぶつかってやっと止まった。
まさかのダメージを負った野牛は驚きながらも必死に立ち上がる。
それに対して悲鳴をあげるのはドラーグ。
どっちが追い詰められているのだ。
既に一発入れただけで疲れ切って泣きそうなドラーグ。
予想外の一撃に全身に痛みが残っていようが立ち上がる野牛。
野牛側ももはや油断はないと言った様子で駆け出す。
直線でドラーグを狙うのではなく周囲を駆けて何時でも貫けるように鋭い殺気をドラーグへ向けていた。
もう半泣きのドラーグだが腕は勝手に動き出す。
天に右腕をかざせば紫の光が手の先に宿る。
その光はみるみる竜の頭へと変化して吠えた。
周囲の空気にエネルギーが飛び散り波状になる。
ドラーグの武技だ。
野牛も勢いに押され脚を止めて踏ん張っている。
自分の口で吠えないのかと思うがそういう武技ではないらしい。
ドラーグは涙を振り切って脚を止めた野牛へと接近戦をしかけた。