百九十生目 発覚
カエリラスの軍団……いや集団を相手している。
敵が向けている意識をスルスルと抜けてゆきあっという間に攻め込む。
私自分で言うのもなんだけれど……まるで戦いのプロみたいな動きだ!
(油断はするなよ、数が多い)
それはドライの言う通り。
さてそろそろか。
「ぐげえっ!?」
「「ぐあああっ!?」」
「な……いつの……間に……!」
みんな"峰打ち"効果で生きてはいるものの見事に吹き飛んだ。
みんなまともに受け身も取れずその場で転がっている。
とりあえず5体……
この様子ならやはり大丈夫か……?
うそだろう……本当に暴動目的?
『学習完了。能力にて殺さずにダウンを狙うのがローズ様のスタイル。敵破壊行動パターン再計算』
『なるほど、殺すのはだめなんですね! これを見せたかったから待機を……勉強になりますっ。誠心誠意拘束しまくります!』
『うんまあ殺すのはよくないんだけどね』
なんというかとりあえず同時に戦わなくてよかった。
確実に殺しに行くところだったか……
危ない危ない。
ただ真面目に彼らの経験を積む機会かもしれない。
ならばそろそろ……
「か……かか……傷つけたな……俺を……!」
「……え?」
さっきのニンゲンが不気味にわらう。
そして……
突如光に包まれた!
「ハッハッハー!! 本当に聞いていたとおりだ! 奴らのクスリは意図的な傷で発動する! 力みなぎるぜー!」
「これは……変身?」
目の前で倒れ伏していたひとりが存在感を急速に増していく。
他は大丈夫みたいだが……
それに他の面々は今の動きがまだ理解できず戸惑っている。
肉体が次々と変化し改めて立ち上がる。
その肉体はニンゲンだったはずなのに様変わりしている。
生体的鎧を全身に持ち顔は片目以外覆われている。
その片目も不気味なガラス窓みたいなのが貼られ瞳を見ることはかなわない。
何より強さが桁違いに上がっている。
"観察"した際の比較が練習相手にもならないという最下位評価から普通まで跳ね上がった。
今の彼にさっきの速度重視な動きをしたら効きにくいか見つけられるな……
「ハァッハー!! 散々キツかった投薬の効果は凄まじいぜ! これが誰でも悪魔の力を合理的に身に着けられる力!!」
「悪魔の……力!? まさか!?」
思い当たるフシはある。
カエリラスの主研究員は悪魔の力とそれがおよぼす効果をニンゲンや魔物をまさしく命を命と思わない残虐さで使い捨て実証していた。
動物実験というものは常にあるものだが使った動物をゴミのように山積みにするのは動物実験とは呼ばない。
単なる狂気があそこに渦巻いていた。
しかし……その研究が成果を確実に上げていたとしたら……
「どうだ、恐れおののけ、さっきの傷ももう塞がっちまった……しかも俺だけじゃないぜ、この施術が成功したやつは今回たくさんいる! 果たして、この街は元の形が残るのかあ……!?」
「くっ……ただの残党になったカエリラスが、どこからそんな力を……!」
しかし悪魔の力とはすなわち神の力である一端……
とんでもないことをしていないか。
本当に悪事を尽くしてなければ世界的大発見だったのかもしれないのに。
敵は大きく股を開き天に向かって両腕を開き突き出している。
あれは明らかにハイになっているな……
気持ちよく喋ってもらわないと。
「カカカ……油断したなあ、表の組織がぶっつぶれたところでバックアップというのは常にあるもんよ。お前らが思っているよりもカエリラスはしぶとく強大よ。今回の作戦も財政を……おっといけねえ」
「ざ、財政を?」
「無駄話が過ぎたんだよ! さっさと血祭りにあげるほうが先だったなあ!」
ちぇっ。
これ以上乗ってくれないらしい。
彼の持っていた剣の柄に異様なほど毛が生えていく。
あのニオイ……まさか彼自身の毛!?
つまり剣と文字通り一体化しているのか。
当然剣身も血が通ったかの如く熱を帯びだし変化する。
単なる鉄の剣が今や複雑な魔力紋様の走る彼の一部と化している。
叩き折るのは……難しいだろう。
「ヒャッハー!!」
叫びながらの突進。
だけど速い!
私は振り下ろされる刃の横に身体を反らし脚に鎧針を纏ってギリキリナナメから弾き何とか避け……
そのまま2度ステップで離れる。
危ない……受けても傷がつく程度では済むものの学んだ攻撃のそらし避け方を覚えていて無傷で済んだ。
私はこの相手から無傷で勝つ……
そのぐらいの意気込みでやって初めて学んだ成果が活かせるはずだ。
「オイ! ぼさっとするな、追い込むぞ!」
「お……」
「「ウオオッ!!」」
周りのカエリラスたちが動き出した!




