百八十生目 銀栞
私は今までどちらかといえば独学が多かった。
それで不便がないつもりでいたし……
何よりこの世界ではレベル上げ得。
レベルを出来得る限り上げて多彩なスキルで相手を抑えきる。
それが私の主な戦術でそこには技術がない。
いやもちろんそれぞれ創意工夫したものはあるんだけれど……
世界には……とくにニンゲンたちの創意工夫は私個人を大きく凌駕する。
今まで私が武術やら高度な戦闘技術に興味が薄く。
冒険者としての能力や自身のレベル強化ばかりに当てていたからなあ。
「ほっ……やっ……」
別の足に瞬時に変え岩を支えつつ2本だけ足腕立て伏せ。
もっと本能任せの狩り以外も学んで技術面を高めねば生き抜くのは難しい。
それをひしひしと最近は感じている。
肉体が力強く柔軟で骨も柔らかくしなり頑丈なのは良い。
鼻がよくきき動体視力も高く耳がよく通るのも良い。
しかしそれらを十全といかせていない今の私は駄目だ。
能力とはそういう基礎に支えられてこそ真価を発揮する。
知識を身につけひとつひとつ自分のものにせねば。
まず……そう。
なんとなくで理解していた私の肉体自体を理解し直す必要がある。
そうして調査した結果。
私の脚について理解を深めるひつようがうまれた。
今酷使している4つの足たちだ。
肉球から絶え間ない汗を流しているこれら。
アノニマルース内の気温調整機能もどこまで変化すればいいか対応しきれずにオートに任すばかりでは私の熱はなかなか発散されない。
この4つ足だが……
筋肉が特殊だ。
具体的に言うとこの筋肉たちは疲労知らずなのだ。
心臓や肺にも重要な筋肉があり常に動かしていると思うが……
私の脚はそこにある疲労知らずの筋肉に近い。
血液がちゃんとめぐる限り動き続ける。
もちろん負傷やら過労によるいろいろな不足で動きが悪化することはある。
それでも単なる筋肉よりも遥かに頑強かつしなやか。
おそらくインカの師はこれに早く目を向けて最大限肉体を使えるようにしていたのだ。
骨が軋まなければこの脚が止まることはない。
ちゃんと脳内の認識と感覚を合わせるほうが大切だ。
でないと脳が勝手に疲労を判断して身体が合わせてしまう。
私のメインウェポンはイバラになるがだからといって肉体が関係ないかと言えばむしろ逆。
ここでどれだけ粘り強くしっかりと安定してどの姿勢からも勢いを殺さず放てるかが鍵となる。
自身の力にかまけず……
さらなる能力向上と体力底上げし指先まで絞り切るように使う術を得てこそ本来の攻防技術は生きる。
もっと限界を超えた技術……私の長所を伸ばし短所を補う技術たちを……
「はっ……ふっ……ん?」
筋トレに集中していて気づかなかった。
何かが私の魂宛に届いている。
岩をイバラで下ろし腕に意識すると紋様が浮かぶ。
銀白に複雑に織りなす模様。
まるで金属の結晶。
祖銀と仲良くなったさいにもらった【住所】だ。
軽くなぞるようにすれば目の前に手紙の文面が表示される。
とは言え実際は展開されていない。
これは私の脳内で映像処理されているだけであって他者から見えるものではないそうだ。
[拝啓 ローズオーラ
寒暖激しい中いかがお過ごしでしょうか。
こちらは変わらず迷宮の奥にて研究を続けております――]
祖銀の文面は結構硬め。
私相手だからなんとなく崩そうとしている雰囲気もある。
祖銀はああいう世界に愛された土地をめぐりその力を他に応用できないか探っているらしい。
確かにあんな極端な場所はどうにか応用できないか気になるものね……
[――先日、こちらに来られ修行を指導したのをすでに懐かしく思います。
技術習得の方、順調にお進みでしょうか。
何か不明な点があったばあい、手紙をお送りください。
心よりその蒼竜めに酷い目に合わされぬよう祈っております――]
うん……
すごく蒼竜毛嫌いされているな!
朱竜の嫌われ方は反発といった感じだったが祖銀の嫌い方は関わりを断つレベルのものだ。
[――ますますの御活躍お祈りしています。敬具]
後でちゃんと読むとしてすんごいこちらを気遣ってくれたものだった。
蒼竜は1度もくれたことないんだけれども。
そうだ……手紙であのことを聞こう。
蒼竜が朱竜に伝えろと言ったあれ。
『それはあの日の結びを得るもの。雪を超えてゼンと化せ』
単語たちをぼかしつつ聞いてみよう。
正直かなり気になる……
……ん? もう一通。
あ……この栞のマークは……
ライブラだ。
後でも良いかな……
ライブラは知識の神。
それは良いんだけれど送ってる頻度が高すぎる。
数時間かに1回は送ってくる。
しかも送ってくる内容が1回1回長い!
中身はなんというか雑学の話を聞かせるようなもの。
ほぼ一方的に。
あと私から記録を送るようにとも。 知識に飢えている……




