百七十六生目 正体
光貴の迷宮は光に包まれた視界の確保が難しい洞窟迷宮。
迷宮内の奥地へ行こうとすると魔物たちの結界スキマを縫っていかねばならない。
じゃないと高能力の魔物に襲われて死ぬ。
大丈夫……私の感覚を信じて洞窟内であっている道を進むだけだ。
幸い洞窟内の道と道はつながるところが多い。
まず左右に別れた道。
ここは……右!
よし!
のんびりやな魔物たちしかいない。
このまま合流地点付近まで駆けて……
今度は広い空間。
端を駆ける。
中央付近に居座っている何かがいる。
見えないけれど……
禍々しいほどに強い魔力が感じ取れる。
そのまま次の通路へ。
大丈夫……教えてもらったメモ通りの方角へ進めている。
おっと!
ここは更に奥へ進むのは危険らしい。 濃い魔力を感知した。
代わりに下へ続く道が。
ここの横道を下っていこう。
道のりそのものは単純だった。
行くところも決まっている。
とにかく見えている爆弾を避けきって駆けるということが恐ろしいだけで。
そのまま緊張と探知を保ちつつグルグルと洞窟を進んで1時間ほどか。
さすがに全力で進んではいないのでものすごい距離を進んでいるわけではないが……
もうじきメモの場所に辿り着く。
そろそろニンゲンの格好をして……
よし。
数百メートル歩めば気配の違いを感じる。
この気配はさっきまでの魔物ではない。
結界も張っていないしかわりに石でできた人工物。
におい……なんだ?
ニンゲンのにおいのはずなのになんかおかしいような。
まあこんなところに住むニンゲンは普通じゃないし。
さらに進めばランタンが光を吸い取る範囲にやっと家が見えてきた。
あれが高速着替え魔術を教えてくれるニンゲンが住む……
よし。気合を入れていこう。
私が近づけば中にいる気配もかわった。
こちらに気づいた……
かなりのやり手だ。
隠しながら進んでも意味はない。
普通に向かおう。
玄関まで来てノックする。
「ごめんください」
「……どうぞ」
少し間があり反応。
こんなところまで来る相手に対しての警戒だろう。
ええと……普通に入っていいのかな。
意地の悪いニンゲンだとこの時点で試練を課している。
……大丈夫。
扉やその奥に仕掛けの気配はない。
普通に扉を開ける。
中を先に視てバレたら不機嫌になられても困ると思って視ずに来たが……
家の中もかなりの割合石造り。
まあこの洞窟内にあるものはそういうものしかないからそうはなるけれども。
こんなところにニンゲンが本当にいるのか……
まあいるから返事返ってきたんだけれど。
ちゃんとこの辺りで使われている言葉だ。
それはともかくとして。
今の声色は女性……かな。
玄関で泥を払い中へ。
中はちょっと暗くされていて見やすい。
奥の区切られた部屋にいるかな。
その部屋の扉を開ける。
中は魔術関係の品々でいっぱいだが……
正面にそれは居た。
「あっ」「あ!」
相手と私互いに思わず指してしまう。
直接見て一瞬で理解させられた。
彼女は……いや。
あれはニンゲンじゃない。
「銀竜!?」
「蒼竜の使い!?」
見た目を貫通して中身を理解してしまった。
おそらくは蒼竜とのつながりがゆえに。
それは相手も同じ。
比較的若くみえる女性。
全身を統一された雰囲気のローブに身を包みいかにも高名な魔法使い風。
端から端まで強力な魔力を感じる……
彼女の顔は整っていてその目だけが異様に力強く見えた。
そして……
私にバレたからか銀色の長い尾がするりとローブから降り床を這う。
「まさか……魔法使いの正体が銀竜さんだなんて……」
「一体何をしに……? ワタクシは何か蒼竜との用はないはずですが」
「ああ、違うんです! 今回蒼竜は関係なく個人で来ただけです、しかも銀竜とはしらず……」
いぶかしげな様子の銀竜に説明をする。
するとグイと突然近くまで近づかれた。
こちらがうそをついていないかチェックかな……
そして大きくひと息つく。
「……ワタクシは正確には銀竜ではありません。元銀竜です」
「元……? 銀竜であるかどうかって、変わるものなのですか」
「ええ。みな古きからいますが、実際のところは次の世代に継ぐこともあります。滅多にはないですけれど。ワタクシのことは、祖銀と呼んでくださいな」
祖銀と名乗った彼女は再び距離をとり椅子へと座る。
なんとかなった……かな。
それにしても蒼竜バレしたときのなんだかつっけんどんとした感じ。
蒼竜って他の5大竜と仲悪いの……?




