百七十五生目 上者
私は両手杖さんから師を紹介してもらった。
大魔法使いとして名を秘める者。
魔法を扱うものたちは秘匿性を重視していて名前すらまともに伝わらないことも多い。
今回紹介された方もそうだ。
両手杖さんすらも本名はしらないそうだ。
今から会うの緊張する……
私が紹介された先は迷宮内。
それだけで異端的な人物だと察した。
迷宮は多数の迷信とそれ以上の実害危険性でニンゲンがわざわざ住むということはそれなりの理由があるからだ。
殺人疑惑だの追い回されているだの野党だの……
凄い脳裏に知人たちの顔が浮かんだけれどいったん置いといて。
少なくとも奇人変人扱いされるタイプ。
両手杖さんはメモを渡してくれた。
この迷宮は光貴の迷宮という。
暗闇だらけなのが幽館の迷宮ならあかるすぎるのがここ光貴の迷宮。
不可思議な水晶風の岩石に囲まれた洞窟で入り口は明るいなあ程度で済むが……
ある程度進むと何も見えなくなる。
暗黒だからではない。
目が潰れるほどに明るすぎて何も見えない。
岩たちが光を増幅してもう影がなくなり物の陰影が捉えられず何もかも光に飛ばされている。
暗さ対策は明かりを灯せばいいが明るさ対策は早々に限界が訪れるため冒険者たちにも不人気な場所。
ここ専用なんて暗喩される暗がりランタンが必須。
さらにいえばここに対しての依頼は少ない。
ここでしかとれない物は少なく……
なおかつ魔物の数も少ない割に強い相手が多いのだとか。
私は鼻や耳を使い周りをちゃんと探知しつつ進む。
そして……何か1体見つけた。
多分私より若干大きいずんぐりむっくりなトカゲだ。
"観察"!
[クロコ Lv.15 比較;とても強い]
[クロコ その目は多くの光の中から紫外線だけをよりすぐり、明るすぎる中でも平常的に周囲を捉える。種族的におそろしく力があるが、それ故にかなりゆったりとしていることが多い。草食]
え?
おかしくない?
なにかの神様?
そんなわけはなくただゆったりと歩いて私の方を一瞥した後そのまま寝転がる。
……寝たーっ!
私に一切の警戒心を抱いていない。
「えっと……こんにちは?」
「しゃべれるのお? こんにちはぁ。おやすみー……」
「お、おやすみ……」
魔物というのは大きくわけて積極的に攻めてくる者と攻めてこない者がいる。
クロコという種族は基本後者らしい……
聞いていたとおりなものの恐ろしっ……
両手杖さんたちによるとこの迷宮では基本的にそこらへんにいる魔物はおとなしい。
たまにヤバいのがいるのでそれからは全力で逃げる必要がある。
ただそれもねぐらが把握されていて近場は平気。
ただし何時間も歩いた先の話は別。
駆ければもっと速いが。
その奥地ではまともに地図なんてない。
どうすればいいかと言うと魔力探知をすれば正確に探れるのだとか。
高度な魔法使いでないものは門前払いのシステム。
私の場合他にもやりようはあるけれどニンゲンたちとしてはね。
その奥地にたどりつけたものだけが魔法使いひとつの高度戦闘技術を身につけられる……
ちょっと試練みたいで緊張する。
さっき見た魔物みたいな力量を持つ魔物がゴロゴロいるのにも緊張するけれどね……
ここの環境は特殊すぎてなかなかアノニマルースへの勧誘はできない。
あと彼らは基本的に戦闘しないものが多く勧誘したとしても戦いはしないだろう。
戦いもしないし鍛えもしていないのは先程のレベルでもなんとなくうかがえる。
たまにこういう世界に愛されている場所みたいなのがある。
尋常じゃないパワーを持つ魔物たちがゴロゴロといるところ。
冒険者たちすらめったに立ち入らない場所。
私も話を聞かなければ命を優先してこんなところには来ていないだろう。
彼らもただ能力が高いだけで戦闘技術的に優れているわけじゃあないから師範にもならないし……
「ここからか」
ついに奥地らしきところまで到達した。
ここからが本番だ。
私は深く周囲の気配を探る。
"魔感"で魔力を探りつつ……
耳や鼻そして"絶対感知"を時折使い危険地帯を探っていく。
道が……見えた!
「よし」
私の肉球から汗が流れ出る。
暑いからではなく緊張ゆえに。
探ってみて心臓がキュッと縮みかけた。
すごくいる。
恐ろしいやつらがそこら中にうろついている。
私がみえている道を縫うように駆け抜ける以外誰かに接触しそう。
魔力感知を使うという意味がわかった。
ここにいる凶暴そうな魔物はテリトリーに濃く魔力反応がある……
おそらく魔力を使った簡易的な結界。
結界を侵すとすぐ探知されるだろう。
腹が減っていれば食べに来るし機嫌がよくなければ排除しにくる。
相手の状態ルーレットでわざわざ危険を冒したくない。




