百七十四生目 労組
冒険者ギルドの個室で成功報告中。
救助依頼の冒険者5人組と会談。
ちゃんと彼らの廃棄した物も回収して渡した。
「結構なんとかなりました! 救援依頼費用の大部分は通例として冒険者労働組合が支払いがあるけれども、なにかと入り用だろうし、価値は私にもわかるので持ち帰ってきました。あの魔物は……適当にパパッてやったらたまたま急所に弱点のものが当たったらしく、慌てて逃げていったよ」
「はあ〜〜本当に良かった〜」
事前に考えておいたそれらしい話を虚実混ぜながら話す。
私ひとりがカツマゼを撃破したというのはおかしいし逆に退けなければこれだけ全部持ち帰れるのはおかしい。
程々な嘘。
ちなみに冒険者労働組合とは冒険者ギルドと違う組織。
正確にいうと冒険者ギルドに所属する者たちから成り立っている冒険者を守る冒険者のための非営利団体。
かなり手広く世界中に繋がりがあるのだとか。
組織の全体像が不明で過去から大富豪が支援しているとか引退冒険者たちが裏で支えているとかスキ放題噂があるけれど実体は不明。
余裕のある冒険者たちや助けられた者たちから寄付を募り冒険者全体に還元している。
冒険者ギルドで募金箱を見かけるのはそれにあたる。
そして冒険者ギルドとしては救援される側に請求がいくのだが……
そこに割り込みで救援費用を8割負担してくれる。
冒険者たちはその他にも様々な保護支援を受けられ組合員側に回る者も少なくない。
希望すると受けられる冒険者基礎学習や……
危険労働手当やら冒険者たちの税金手続き支援など幅広い。
だいたい払う額に対してもらえるものがとても大きく使わない冒険者はいないといわれるほど。
というかそうじゃないと冒険者は1つの大怪我で金に迷って借金背負わされたり……
たまたま一発当てた冒険者が個人事業主扱いの支払い面でミスをしあやうく脱税しかけたり……
初心者が手頃な地下道魔物駆除を受けてそのまま2度と帰ってこなかったり……
組合があってもありふれた出来事なのでそりゃあ大事だ。
今目の前にいる冒険者のみんなもそれはもう体中傷の手当だらけで組合の危険手当でなんとか金額中和しているようなものだろう。
「これがあるとないとでは、わたくしたちが前線に戻るまでの時間が大きく変わりますからね」
「今度また、個人的にお礼させて。一緒に飲み食いしよう」
「ぜひ!」
「あ、そうそう聞いたぜギルドの人からさ、ローズさん? だっけ、とんでもないハイランクなんだって!?」
「雰囲気をうまく操っているの? 全くそうとは見えないけれど……」
そう。
私が気配を表に出しすぎるとそれだけで恐れおののいてしまうか頼もしすぎるようになってしまうらしい。
ふだんから一般人レベルに気配をコントロールしておいてやべーやつにはならないようにはしている。
「こうみえて、結構長年冒険者をやっているんで、そこは頼りにしてください。毛皮のおかげでいつまでも若くみえるんだ」
「ああ、そうなんだ? 結構若いのにすごいのかと……」
「ここらへんは濃い毛皮タイプのニンゲンは少ないからなあ」
「暑いからな……暑苦しくなる」
ナックルさんの眉間にしわが寄る。
確かにこの大陸比較的みんな毛が薄いと思う。
髪の毛の話ではなく。
私の年齢は既に元の種族……ホエハリ的にはいい年だ。
ニンゲン換算で話しても……まあいいよね。
老けて見られるのは困るが若く見られるのはいいものだ。
「ああそうだ、報酬の話だったね。報酬はちゃんと物品もプラスしておくよ」
「あ、はい、それはありがたく受け取ります。あとなんだけれど……」
こういうやり取りで実は金額よりも物を渡されることも多い。
物は良い……仲介料があんまり取られない。
まあもちろん必要か不要かはその時にならないとだが。
私はそっと両手杖さんのほうに身を寄せる。
実は今回そんなものよりも断然欲しい物があった。
なんなら途中から本命になった。
「うん?」
「ぜひ、高速着替えによる魔法術に関して教えを受けたいな〜……と。私は、それなしできてしまったから……」
「えっ、むしろできなかったのかい!? いや、魔法専門という感じはしないし、知らなくとも無理はないか……」
私は魔法剣士的なもので通している。
ダブルナイフさんに近いか。
両手杖さんのように専門的な魔法使いとは結構属するものが違う。
なので向こうもそれに関しては納得してくれたらしい。
両手杖さんはうなずく。
「うん、良いけれど、わたしは教えられないからね。そこまでの卓越したものはないから。あくまで、師を紹介できるだけ」
「それでも、もちろん!」
「決まりだ」
両手杖さんと握手を交わす。
リーダーさんたちとも。
これは大きな1歩になりうるぞ!
「そうそう、折れていた脚を見せたら奇跡的に上手な治療跡があるって言われて、一切の後遺症なしで腫れが引いたら復帰できるって言われたよ、治癒の力も凄かったんだね」
「えっ? あ、はは、たまにはうまくいくときもありますよ」
ち……治療は手を抜くわけにはいかないからプロは見抜いちゃう時があるか……!
危なかった。