百七十二生目 耳落
イヤリングはあった。
私の切り飛ばされた耳と共に。
あんまり見たくないな……!
見ると私の耳がない感覚が脳内でちゃんと再現できてしまって……
めっちゃ痛い。
めっっっちゃイタイ。
まだ戦闘はおわってないから素早くもう片耳につけかえる。
落ちた耳……あれは大事だからすぐに回収する。
待ってて……!
カツマゼはその肉体が完全にバラバラになり……中心の骨はただ静かに佇む。
そして……肉たちから残りのカツマゼ虫が這い出てきた。
彼らはもう戻ることもできずひたすらうろうろしている。
燃やそう。
火魔法"フレイムピラー"。
そして"Fリビエイション"
つまり火柱を上げたり炎を吹き付けたりした。
肉ごとよく燃える……
完全に力尽きているからだ。
もはや火葬か。
カツマゼ虫の残数もさっきまでな戦いにより数を減らし初期のウヨウヨ感はまったくないね。
もはや戦闘ではない。
駆除作業だ。
数がおそらく限界まで減ったと思う。
私の嗅覚に捉えられているのはただ一匹。
虫はもうほかにはいない。
宿る相手ももう無く群生個体だったのにただの個体。
こうなった時寄生虫は何を考えるか。
そう。
カツマゼ虫は……
細長い体で信じられないくらいの高い飛躍をし……
私の切れた耳へ向かって飛び込もうとしている。
脅威的な程に速い!
おそらくはこの時のためだけに用意されている窮地の力。
様々な生き物が持つ自分ではコントロール不可能な火事場の馬鹿力。
そんな必死の1撃は私の予想を大きく上回っていた。
だけど……
カツマゼ虫は気づいたら何かの板にぶつかり遮られていた。
私まであと僅かな距離で……
大剣ゼロエネミーの腹の上に乗っけられていた。
私はイバラを伸ばしすかさず瓶に詰める。
「よし! カツマゼ捕獲完了! ゼロエネミーありがとう」
ゼロエネミーがそっとチョーカーの形に戻って私の首に戻る。
カツマゼも魔物だ。
同じく保護対象にある。
ただ今回のカツマゼは神力の影響を食らっていたのか明らかにめちゃくちゃ強かった。
多分帰るころ2つ名をつけようかどうかの話をしているレベルだろう。
カツマゼ自体には悪意ないもののほうっておくとこの迷宮の危険度が跳ね上がるし生体があまりに危険。
群生個体の場合こうやって1体のみを保護したりもする。
もし冒険者ギルドにも情報のないレア魔物だったら困るので余計に全滅は避けたかった。
ゼロエネミーと協力して捕獲したわけだ。
これは冒険者ギルドに回されてより確かな魔物情報の共有に使われる。
多分だけれどこの迷宮に過去挑んだ冒険者も寄生されていたりして……
とにかく数だけ増やしてある日大脱走し自身の力で感染させやすい個体に乗り移ったりと今までもしていたはず。
寄生虫対策はちゃんとしないと危険なことにつながる。
ただ幽霊ってだけじゃなくてなんとなく経験的にここにいった冒険者が元気を無くしやすいから封印していたのかもね。
景色は完全に元の部屋へと戻った。
肉体は燃えカツマゼは捕獲。
ならばあとは……
黒々しい存在感を放つ祖の骨だけだった。
何を考えているのか……
そもそも感情があるのかすらわからない存在だ。
とりあえず耳拾おう。
『見事也』
ゆっくりと噛みしめるような念話。
ただそう言うと祖の骨からの威圧が嘘のように凪ぐ。
と……とりあえず耳が優先。
トゲなしイバラで拾い上げて耳の位置に合わせ……
光魔法"イノスキュレイト"。
切り離されていた部位がつながっていく……
「君は……一体……」
『我は始まりの者。その一部。彷徨えし存在。忌むべき存在。過去の不要物。だが、貴殿の力になるのなら、それに応じよう。そうでなくとも、ここで眠るのみ』
「い、いやいや! ここで眠られるのは結構こまるというか……!」
私は慌てて祖の骨に詰め寄る。
耳がまだくっついてないから中途半端な姿勢なのに。
それに……
「結構大きいし、使いみちとかがわからないんだけれど……」
『大きさに意味などない。使い方は貴殿次第だ。我はそれを遠くで……見守るのみ……』
「あ、ちょっと!? ちょっとっ!」
声がどんどんと遠のき……
最後には聞こえなくなり何度聞いても答えてくれなくなった。
ね……寝た!
どうしようこれ……
とりあえず触ってみる。
すると私の背丈よりも大きくあった祖の骨は一気に縮まってゆき……
最終的に私がくわえることすらできるサイズまで落ちた。
な……なるほど。
大きさに意味はないって自由だからってことか……
えーっと……
とりあえず持ち帰ろう。
全てはそれから。




