百六十二生目 治療
救助対象冒険者は5名。
リーダーのハンマー重鎧持ち。骨折中。
身軽なショートソード探査。
ダブル短剣の中衛。
両手杖の後衛……
そしてひとつのイヤリングに聖魔法"レストンス"をかけなおしているのが複雑な織模様の場に似つかわしくないほどの美しい格好をしているの最後のひとり。
彼が力尽きていればあっという間に全滅だっただろう。
グローブとそこに嵌めたナックルに輝かしい魔力宝石をつけている。
「まったく、引き際を間違えすぎているんだ。僕の魔法頼り過ぎて、救援が遅れたら本当にまずかったぞ」
「ごめんて」
ショートソードの彼女がナックルの彼に笑いながら謝る。
ナックルの彼も呆れつつも少し笑みをこぼしていた。
私の到着で場の空気が緩んだらしい。
みんなに非常時用のセットやら水やらを事前に出しておいた。
目の前で空魔法"ストレージ"を使うと経験上いろいろと驚かれるからしない。
それで詮索されても大変だし……
冒険者用の中を魔法拡張したかばんから出せば不自然さはないしね。
それと……だ。
「骨折、見せてください」
「すまない、頼む……」
脂汗をにじませるリーダーのもとによって治療を開始する。
こっちの回復に行動力を回さなかったのは英断だ。
ナックルさんが"レストンス"を使う余力がなくなったら全滅する。
足をよく見せてもらう。
なるほど……足の関節部分がバッキバキだね。
"見透す眼"で見た感じヒビも入っているしただ脱臼したわけでもない。
なんとなく頭の中でイメージが浮かぶ。
あの大きな骨棒大上段を正面から盾で受け止めるがそのまま振り切られ足をやってしまうイメージ。
ちらりと見たが腕の方も壊れてはないけれど……って具合だ。
光魔法"イノスキュレイト"!
この魔法は部位の接合できる。
そのためには使い手の理解があったほうが圧倒的に効率的。
「うぐ、ぐ……」
「少し我慢して、じき楽になるはず」
リーダーはうめいている……
聖魔法で治すより圧倒的に痛くはないんだけれどさすがに折れた骨を治そうとしているからね。
すごく腫れた箇所をいじられるだけで痛みは走るだろう。
光が私の手から優しく降りていく。
リーダーの足を優しく包み込み少しずつ癒やしていく。
実はわざとゆっくりやっている。
まずに治療魔法はゆっくりのほうがちゃんと後々まで残りにくいしっかりとした治し方になる。
そして次の理由が大事だが……
やはり私の魔力が高すぎておかしくならないため。
単独でここまで来てあまりに余力ありすぎたらさすがにおかしい。
神域の力だともはやぶっとんでいるし。
過ぎたる力は振るうものではない。
「ううん……やっぱりそうだ……妨害されている」
「駄目か? まずこの迷路から抜け出さないとなあ……わたしの武器もイカれちまっててキツイぜ」
「どうしても転移の魔法は繊細だからね」
両手杖さんがショートソードさんと今後の相談をしている。
この迷宮から抜けるための魔法を使いたいらしいが……
私がこっそり魔力探知している感じ同意見にならざるおえない。
彼らや私が脱出するにはこの迷路を抜けるか迷路の主を倒すしかない。
迷路を作り出しているのは幽霊たちなのだが……
その核として選ばれている存在がある。
多分……さっきのやつ。
カツマゼだったか。
あの虫が選ばれている。
あまりに強大なパワーの持ち主でかつコミュニケーションを取ることがない存在のため……
奴が誰とも連携を取らず渦の中心として君臨しているのだろう。
つまり洞穴を掘っているのが幽霊で洞穴の出入り口を塞いで巣としているのがカツマゼ。
歩きで迷路を抜けれればそれにこしたことはないんだけれど。
「やはり駆けて抜けるしか……」
「それが出来ないって結論は出しただろう、足の問題だけじゃなくてさぁ」
「そうよね……」
ちなみに謎の力に阻まれてできないのは壁越しショートワープ。
ショートワープと位置指定ワープは方式がまったく違って普通なら位置指定型はここでも塞がれる心配はいらない。
なんというかショートワープってそっちの方向に真っ直ぐ走っている感覚に近い。
次元が違うので現実世界の時間や物理に影響されずに移動が出来るのだが……
こちらのワープ次元に干渉されればそりゃ防がれる。
これは魔法使い同士の戦いでは高等テク。
そして位置指定型の……要は遠距離ワープは空間と空間をつなぐ感覚。
Aの地点からA‘の地点まで間を無視した穴を作る。
つまりトンネルだ。
トンネル内は基本的に他から干渉されにくい。
ただ弱点もあって今回のようなタイプだ。
穴を開ける始点か終点邪魔されたら開けられないのだ。
今回はそれがカツマゼなわけで……はぁ。