百六十一生目 合流
生理的嫌悪感の他に魂への嫌悪感も感じる魔物が扉の向こうにいた。
全身から生えた昆虫の脚やニンゲンのみたいな手を揺らしたくさんの顔にある目は全方位を無意味に見張っている。
気持ち悪い……
"影の瞼"が自動発動して私の目に瞬膜みたいに黒い光が降りる。
あまり見続けるのはよくなさそうだ……
なるほどあれは恐ろしい。
"観察"!
[カツマゼ Lv.50 比較:少し強い(異常値あり) 危険行動:取り込み 異常化攻撃:めまい]
[カツマゼ 様々な魔物を取り込む魔物でその核は基本的に見えない。本来は小さな寄生生物だが成虫段階では多くの魔物を融合させている。闇の魔力を自身に持つ]
刺激しないように通り抜けられないかな……
扉をそっと開ける。
音を立てないように……
部屋の中は結構広めにとってある。
冒険者たちが全力で逃げたら振り切れたのも納得。
そして。
特に気配は立てていないのに相手の足はこちらに向かってくるー!
やっぱり大量にある目はごまかせないのか。
更に彼は体の1部に長めの手をかけ……
はたから見れば自身の体を一部引き抜いている。
正直かなり痛々しい光景。
そうして何かがズルリと抜け落ちる。
それは重々しい骨の棒。
ただの骨ではなくより固まった1つ。
さらに暗い光を纏っている。
闇の魔力を強く感じる……
触れるのは危険だろう。
というか逃げなくちゃ!
急いで駆け出す。
もうスニークしている意味はない。
敵は猛然と勢いを上げつつ突っ込んできている。
えー道……道……!
「わっ!」
会話もできないだろうそれが私の背後で骨を振るう。
床ごと吹き飛ばす勢いだったのをステップで必死に避け……
光の破裂をもらいつつ致命打を避ける。
土魔法"クラッシュガード"の光鎧が砕けた。
"クラッシュガード"の弱点としてどんなカス当たりでも1撃とカウントされること。
もったいないが仕方はない。
とにかく駆けていかねば。
あった次の扉!
あそこに駆け込んで……
背後からさらに迫ってくる恐怖の姿。
ギリギリ飛び込みすぐ扉を閉める!
すると。
急速に足音が止む。
そしてゆっくりと遠のいていく。
どうやらここに待ち構えているタイプらしい……
ふう……すぐそこに冒険者たちがいるはず。
廊下を進む前に姿をニンゲン風に偽装しよう。
奥へと進みもはや分かれ道もないあたり。
角を曲がればニンゲンたちのにおい。
冒険者たちだ!
「無事でしたか!」
「よかった、あそこを抜けられたんですね!」
「やっと助けがきたあ……」
「すまない、骨折してもう1歩も動けないんだ……!」
やっとちゃんと顔を見れた5名は全員精悍な顔立ち。
傷のないものはひとりもいない。
何よりも足の骨を折ったのか仮固定している男が1番傷が多そうか。
何よりも彼らからは行動力の残量がほぼ感じられない。
つまりエネルギーを使い果たしている。
個人で差はあるものの特に魔法系が得意そうな3名からは濃い疲労の顔が見られた。
もう回復に回す余裕もなかったか……
「取りあえず最低限の腹ごしらえと回復を優先しましょう」
「済まない……たのんだ……!」
足を折っていたのがリーダー格のひとり。
一番ごつい鎧を着込んでいるところを見るに受け盾係か。
「アイテテ、しばらくは休みかな……」
次に魔法系統ひとり目。
見た目はパッと見鎧と服装といった様子ながら武器が2つの大ぶり気味なナイフ。
どちらも魔法系統を加速させる杖の役割もあるタイプみたいだ。
「リーダー、無理をしないで休んでください。転移はそろそろいけそうですか?」
一方転移を頼んだ相手は明確に黒服を纏いオーソドックスに大きな杖を持っていた。
とはいえどれもグレードは高いものに見える。
まあここに来るだけあって実力者だよねえ……
「うーんちょっと待って……何かが明確に邪魔している……多分……さっきのやつかな。この迷路自体がやつの縄張りなのかもしれない。探査としての意見はどう?」
もうひとりはいかにも身軽な姿をした軽鎧持ち。
ショートソードが欠損していて何かを無理やり防いだ跡が見られる。
リーダーが足折れたから代わりにかな。
「わたしとしちゃあ、ここはあまりにもさっぱりすぎる、迷宮の常識部分が通用しにくい! まあ、でも封じ込める気で逃したんだろうなって考えは、わたしも思った。おっと……最後の光が消えそうだ。退魔の力、頼める?」
そうして最後のひとりが聖魔法"レストンス"を唱えだした。




