百六十生目 冒涜
幽霊魔物たちに追われまくっている!
数が半端じゃない。
おそらくはこの近くに抜けそうな床があるはず。
とにかく駆けて背後からたくさんの闇玉を避ける。
魔力の塊だ……避けたほうが無難。
廊下の壁に突き刺さる。
まるで重たい鉄球だ。
とにかく駆けて避けるよける避ける!
「そらッ!」
逃げながら針を撒くのは結構効率が良いことに気づいた。
どうしてもイバラだと私の向きや踏ん張りが大事だが……
"針操作"で針を生み出しては放つのはいつでもできる。
針たちは次々幽霊魔物たちに向かっては刺さったり弾かれたり。
いい感じに燃やしている。
ゼロエネミーはちゃんと後少し残っているやつを重点的に斬っている様子。
(もちろん。その見極めは任せておけ)
ドライの念じでちゃんと動いている。
ただアレだけではとてもさばききれない。
うわっ! 雷もとんできた!
ゼロエネミーは平気だけれど私自身はそこそこ感電しちゃうからうまく逃れたい。
足元を焦がすいかずちをタップダンスみたいにジタバタしつつ避けて……
ダッシュ!
においは確かに追えている。
どこだ……道は。
「ギャアアッ!!」
「フフフフ……」
「もっともっと! 遊ぼう!」
針が刺さった1体が燃えながらどこか逃げていくのが見えた。
照らせない深い闇の中に彼らの笑顔だけが浮いて見える。
こちらを取り囲んでいたぶる気だ。
「遊ばないし仲間にもならないから、向こう行ってッ」
「ケケケッ」
「ギャギャッ! 燃える燃える!」
「遊んでくれてるー!」
彼らは仲間が燃えるのにすらケタケタと笑っている。
だいたい針が3回刺さるぐらいで撤退させられるか……
一回刺す数はおそらく数百本だが。
ゼロエネミーが斬り裂いているのは2回刺さった相手の追撃。
効率良く倒しているものの単純に相手が多すぎてわんこそば状態。
とにかく逃げて時間を稼ぎ……
魔法を唱える。
地魔法を!
[ラース・アース 地面がたくさん剥がれ持ち上がり空間全体に飛び回る]
床から地の光が剥がれるようなどんどん生まれ……
床が剥がれてしまったかのように持ち上がっていく。
さらに空中へと勢いよく浮き上がり……
「ウゲッ!?」
「なっ、なんだあ!?」
「これはこれはまずいまずグフッ!?」
次々とその大きな床たちに当たっていく。
土の光効果が乗っているから彼らにもちゃんと当たってしまうわけだ。
さらに。
巻き上げられた地面たちは空中で勢いよく空間を旋回移動しだす。
大きく速くそして重く。
あたり一面を粉々に砕くかのように。
どんどんと場が土塊のダンス場になっていく!
「キャアア!」
「これどうしようもグッ!?」
「に、逃げゲヘェッ!?」
土塊洗濯機と化している場が物凄い勢いでかき乱されていく。
すごい……自分で放っておいてなんだけれど。
大地が場の敵全員を巻き込んで土で跳ね飛ばしている。
この魔法の効果時間中に走って逃走だ。
煙に巻くならぬ岩に巻く。
場所を探そう。
しばらく逃げるように移動していたらやっとそれらしき場所が。
床がボロボロだ……
ここを慎重にと。
ところどころ穴が空いているな……
ここは床が見た目通りらしい。
1歩ごとに軋む。
私は4足なわけでそりゃあもう軋む音がなりっぱなしだ。
さすがにちょっと緊張するな……
それなら飛べって話かもしれないが。
やがて向こう岸へと辿り着く。
ここからは軋まない!
罠……もなさそうだ。
問題は次の話だ。
扉を開けたら恐ろしい魔物……か。
ここまで来て何がでるのだろうか。
またライブラみたいな幽霊神かな……
さすがに身構えてしまう。
傷の手当……補助魔法の補充。
みんな完璧だ。
駆けて進めば私の足ならすぐにつく。
1つのあからさまに大きな扉。
ニンゲンたちのにおいも続いている。
廊下同士のつながりが複雑だけれどわりと多くの扉でつながっているから……
ここも別の廊下につながっていると油断してしまったのだろうか。
"見透す眼"!
扉の向こう側にいるのは……
私の想像を超えていた。
それは実体があった。
この環境ではもはや珍しい生者。
いやあれは……あの冒涜的な姿は生者と呼んで良いのか。
それは虫のようだった。
強大な昆虫のような何か。
けしてただの巨大な昆虫ではないもの。
その腕は全身から大量に生え……
足は無造作に大量にあり。
直立しているのに丸型で。
それはまるで無邪気な子供が最悪の造物を生み出してしまったかのような。
大量の顔大量にうごめく手大量なる足が一つの肉にかたまり昆虫の甲殻に押し固められたような。
正気を失いそうなものがそこにいた。




